、良い物をくれてやる。受け取るが良い」
「え!?なになに?!」
「孵りかけのカマキリの巣よ」
「っぎゃあああああー!!!」

お隣に住む元就くんは意地が悪い。超ど級のエスだ。そんなわたしは運悪く彼の隣の家に生まれてしまったお
かげで三歳の頃から幼馴染をやっている。でもって元就くんの家はこれでもかという位に大きい。お手伝いさ
んもいるし日本庭園まである。サラリーマン家庭の我が家と違い、お父さんが弁護士でお母さんがお医者さん
をしていて、元就君も大きくなったら医者か弁護士になるのが夢らしい。
 
「気取りやがって!元就くんのぼんぼんめ!」
「ほお。我にそのような口を利くか」
「いひゃいいひゃい!ほっぺ抓んないで〜!ごめんなさいってば!」
 
元就くんはいっつも私に暴力を振るうから、わたしは彼が好きでは無い。幼馴染なんかじゃなかったら絶対に
関わり合いになりたくない人種だ。気に入らない事があるとすぐに叩くし蹴るし、この間なんて隣の席の男子
とちょっと話をしただけで額に本気チョップをかまされた。あれはめちゃくちゃ痛かった。ともかくそういう
わけで、わたしは生まれてきてからこれまでの間、ずっと元就くんに良いように虐められ続けてきた。しかし
それもおしまいである!
 
「元就くん元就くん!!お受験するんだって!?」
「どこで其れを聞いた?」
「おばさんが教えてくれた!すごいね!私立だよ私立!やべーかっけー!」
 
神様仏様ありがとう!やったねこれでようやく毛利元就から離れる事が出来るよ!地獄のような小学校六年間
を頑張った私への神様からのご褒美に違いない。なんか超名門校に入るらしい元就くん。なにはともあれ中学
校では元就くんに虐められない青春を送れるね!
 
「元就くんなら合格間違いなしだね!」
「当然よ」
「うん!おめでとう!!おめでとう元就くん!!」
「・・・」
「おめでとう!!本当におめでとう!!」
「」
「なあに?元就くん!」
 
バシン!! 

「いったああああ!!ちょ、なんでおめでとうって言っただけなのにブツの!?」
「・・・覚えておれ。我の目の届かぬところで不貞を働こうものならば制裁を下す」
「急になに!?っていうかふていってなんだよ!いみわかんないし!」
「学校より戻ったらば必ず我の携帯に連絡を寄越せ。授業の内容、誰と何を話したのか事細かに説明をせよ。
して休日には必ず毛利家に参れ」
「監視する気か元就このやろう!」
 
ふざけんなよ毛利元就。わたしの中学校生活をおじゃんにする気か!?幼馴染の奴隷が青春を謳歌するのがそ
んなに許せないってか!?冗談じゃない!わたしは中学校に入ったらするって決めてることがたっくさんある
んだ!元就くんがいたらまた部活動も委員会も禁止にされかねない。元就くんに絡まれ続けたせいでわたしの
小学校生活は友達百人どころか一人も出来なかったんだぞ!中学校入ってまでジャイアンと一緒なんてこりご
りだ!のび太だって鬱病まっしぐらだぞ!
 
「、面を上げよ」
「もー今考えごとしてるんだから話しかけないでー」
「何をしている」
「アリの観察だよ。見てわかるで、」
 
ジャリッ!
 
「ああああ!!アリ死んだ!今大量のアリが元就くんによって殺された!!ひどいいい!!」
「ふん、所詮虫ケラよ」
「血も涙もねえ!」
「次は言わぬ。、面を上げよ」
「もう!なに!?」 

この冷血かんによってまた大量の犠牲が出る前にとしぶしぶ顔を上げれば、視界には元就くんの顔がめいっぱ
い広がった。普段のするどい瞳は瞼に隠れてしまっていて髪と同じ栗色の睫が見える。あれ、なんか息が苦し
いな。状況がよく掴めなくててボケーッとしていると、元就くんの目が開いた。視界が開けたのと同時に呼吸
も出来るようになった。
 
「元就くん。今、なにしたの?」
「・・・知らぬのか?」
「え、うん」 

珍しく元就くんが呆けた顔をする。それも一瞬の事ですぐにいつもの日本人形みたいな能面に戻ったけれど、
次の瞬間に幻程度に口の端を小さく吊り上げたのを見てしまった。あ、嫌な予感。元就くんは地面にしゃがみ
こむ私を見下ろして、哀れにな、と殊更ゆっくり口にした。わたしのことを馬鹿にするときの元就くんだ。
 
「え?なにが?」
「そなたは今、傷ものになった」
「は、え?きずもの・・・?」
「嫁の貰い手がなくなったということよ。言い換えれば将来がなくなった」
「は!?おいい!ふざけんなよ毛利元就!!わたしまだ11だぞ!人の将来奪うってなに考えてんだ!」
「だが案ずるでない。そなたを傷ものにしたのが我であるならば、その責もまた我が負えばよい」
「はあ?どういうこと?」
「・・・馬鹿が。夫婦になれば万事解決だと言っておる」
「ばかじゃないし!!ていうか、めおと?」
「うむ。接吻は婚姻の契りゆえ」
 
なんだ、なにがどうなってるんだ。せっぷんってなんのことだよ。めおととか難しい言い回しばっかりしやが
って元就このやろうおぼえとけよ。頭がいいからって調子に乗るなよ。つまりあれだろ。
 
「・・・お嫁さん?」
「然り。そなたは生涯、我の側を離れること叶わぬ」
「はいっタンマー!」
「何がだ」
「絶対嫌だ!だって元就くんわたしのこと虐めるじゃん!しかもキスした相手と結婚しなきゃいけないんだっ
たら、わたしの相手はお父さんだよーだ!」
 
ボカッ!
 
「いったあ!!」
「ふん。血がつながっている者とは結婚できない。斯様な常識も持ち合わせておらんのか」
「し、知ってるし!」
「ならば何が不満だ」
「う、あ、う・・・・!」
 
だってだって、なんでわたしをこんな哀れな傷ものにしたのがよりによって元就くんなんだ!元就くんのお嫁
さんなんかになったらいびられて一生が終わっちゃうよ!夫婦げんかにすらならねーっつの!一方的なDVを
受けてボロ雑巾のような扱いを受けるに決まってる!頼むよ毛利元就、おまえ頼むからこれ以上わたしの人生
に関わらないでくれよ!
 
「も、元就くんなんて嫌いだー!!」
「待てい!」 

わたしの中学校生活がかかってるんだ!今度こそ元就くんの言いなりになんてなってたまるかっての!
 



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