意外だけど中学に入ってからまだ元就くんと会っていない。あれだけわたしに連絡を入れろだの休日は毛利家
に来いよだの言っていたくせに、実際は忙しくてそれどころじゃないみたいだった。小学校の頃と違ってお互
い部活動や委員会で忙しいだろうし、当然っちゃ当然だ。拍子抜けした感は否めないけど、元就くんがいない
おかげで友達も出来たし、わたしもそれなりに充実した中学校生活を送っている。ただ、あんまりにも此処最
近音沙汰がないんで、もしかしたら死んでるんじゃないかと少しだけ不安になった。一応仮にも幼馴染なので
心配くらいはする。生存確認だけ出来ればそれでいいしと思い、メールを送ってみることにした。中学に入っ
てようやく買ってもらえた携帯を開いて電話帳を見る。お母さんから聞いた元就くんの携帯のアドレスを宛先
に入れて、『だよー、元気?』と簡単な内容を打って送信ボタンを押した。
 
ピロリン♪

「はっや!!」
 
送信してから三十秒経つか経たないかで返信が来た。土曜日だから暇していそうな気はしたけど、この返信の
速さは異常だろ。もしかしなくても本当にわたしのことを監視してるんじゃないだろうな。毛利なら有り得そ
うだぞおいと思いながらおそるおそるメールを開けてみる。が、本文は真っ白だった。
 
「え?空メ?いたずら?いたずらなの??それともいつもの虐め?」
 
あえて文字の色を白にしてるんだろうか。それともお前のくだらねえメールに付き合ってる暇はねえんだよっ
ていう返事だろうか。返信に困っていると手に持った携帯が震え出した。着信表示、元就くんからだった。
そういえば久しぶりに話す気がする。何を話せばいいんだろう、緊張してきた。あれだ、とりあえず挨拶!
 
「もっ、もしもし!」
「か」
「うん!ひ、久しぶりだね元就くん!元気だった!?」
「・・・馬鹿者。今メールでした遣り取りであろう」
「あ、なんかドエスな元就くん懐かしい!ホント全然変わってないね!元気そうでわたし安心したよ!でもな
んか忙しいみたいだね!ごめんね邪魔して!じゃあまた「切るでない」
 
なんだよお互い生存確認できたんだしもういいだろ。話す事ないよ切ろうよ。ていうかびいっくりした、元就
くん声変わりしてる。いつの間に低くなっちゃったんだ。心臓に悪いから急な変化はやめようぜ。
 
「今から会えるか」
「え!?別にわたしたち会う必要ないよ!元気だってことも分かったんだしもう十分だよ!」
「今家を出た。もうすぐ其方へ着く。待っていろ」
「おい話きけよ毛利元就!!」
 
ピンポーン
 
来たもう来た!早すぎるにも程がある。わたしなんてまだ朝起きてそのままのパジャマだぞ。土曜日だからっ
て完全にリラックスモードになってるし、こんなんでインターホンに出れるわけがないだろ!『ピンポーンピ
ンポーン!』はいはい出ますよ出ますから!出ればいいんだろちくしょう!!
 
「元就くんピンポンピンポンうるさい!」
「耳元で喧しい。騒ぐでない」
「急に押しかけたのはお前だろ!一体なんの用だよ!!」
「旅行で今日は戻れないからと貴様の両親より留守を任されておる」
「なんだそれ今初めてきいたぞ!なんでよりによって毛利に頼んだんだよお母さん!!」
「我が申し出た」
「お前かよ原因!!」
「会いたかった」
「うぼおおお!!なに!?急になにすんのお!?」
 
なんか元就くんに抱きつかれた!!ていうか周りの人が見てるよ恥ずかしい!!ああん!パジャマにサンダル
つっかけただけのボサボサ髪の女と毛利家のボンボンが朝っぱらから玄関口で抱き合ってるなんて噂が流れた
らもう恥ずかしくて恥ずかしくて生きていけない!!
 
「おまえさては偽者だな!!わたしの知ってる元就くんはこんな感動的な抱擁なんてしないぞ!」
「何を言う。接吻をした仲であろう」
「ああああ黒歴史いい!!」

公衆の面前でこんな言葉攻め羞恥プレイに耐えられるほどMじゃない。急いで元就くんの腕を引っ張って家の
中に入れ、超特急で着替えを済ませてリビングに戻った。目が合った元就くんはソファの隣をポンポンと叩
く。誰が苛められると分かっていて隣に座るか!無視してソファの端っこに腰かけた。

「何故遠くに座る」
「な、なんとなく」
「ほう」
「ちょ!なんで近寄ってくるの!?」
「なんとなくよ」
「腹立つ!!」
「学校はどうだ」
「なに急に!まあまあ楽しんでるよ!」
「授業はどうだ。成績は。友はいるか。部活は何をしている。委員会は。放課後は如何している」
「そんなの知ってどうすんだよ!さてはまた弱みを握ってわたしを虐めるつもりだな!その手にはのるか!」
「何故一月も連絡を寄越さずにいた」
「連絡する用がないからに決まってんだろ!」

そう言うと元就くんが一瞬悲しそうな顔をした。でもすぐにまた顔を寄せてきたので見間違いだったんだと思
った。

「」
「なに」
「一月我と会わずにいてどう思った」
「どうってなに?」
「そのままよ。間違えれば罰だ」
「わたしの意思関係ねえじゃねーかこのドS!」
「答えよ」

元就くんが体重を乗せてきた。重いし近い!鼻先がこすれあうし額もごっつんこで視線すら反らせない状態に
なった。しかもよく見たら元就くんにマウントポジションを取られている。これでわたしが間違った答えをす
れば確実にヘッドバットか顔面タコ殴り、よくて往復ビンタだろう。脳天かち割られそう!絶対いやだ!

「ひ、ヒント!ヒントください!」
「無いわ」
「鬼畜!人でなし!」
「3・・・2・・・」
「カウントダウン!?まってまって、え〜っと!!!」
「1、」
「いやああああんん!!もうむりいい!!」

バシンッ!!!

「時間切れだ」
「いやあああ!!!ちょういたいいい〜!!」
「さて、罰だな」
「うう、いてえよお・・・」
「一日一回接吻の刑に処す」
「!?」

自分で口にしておきながら顔を赤らめた毛利元就を見て、わたしはこいつが心底憎いと思ったね!





なるほど、ルサンチマンというわけかね。