私は竹中君に夢を見すぎていると思うんだ。自分で自覚があるんだからきちんと現実を直視しなきゃとは思う
んだけど、これが中々恋は盲目とは言ったもので。あ、そういえば今日のこと。数学の授業で先生に当てられ
た竹中君が前に出て黒板に答えを書いてたけれど、その時のチョークで書いた字がとてつもなく綺麗だった。
見てた?流れるような、それでも凄く読みやすい字だった。ていうか芸術でした。黒板ごと二億円で買って額
縁に入れて家に飾っておきたい位だった。黒板にあれだけ綺麗に書けるって凄くないかな。それに比べてあの
数学教師のミミズを張ったような字。字は人を表すとはこの事だね。課題はたくさん出されるし。あーあ、竹
中君のサインが欲しいなー。顔に。あ、ごめん。話が逸れてたね。とにかくさあ、私が何が言いたいって。
 
「竹中半兵衛君がドーナツを食べてる姿が想像できない」
 
んですよ。今こうして私達がフレンチクルーラーを噛み千切らんとして大口開けて花のJKの称号を捨てよう
しているけれど、こんな事竹中君は絶対しないじゃん?てかしないよね。うん、しない。竹中君は王子様もし
くは女王様みたいな生活を送ってそうじゃない?なんか白ご飯とか味噌汁なんて口に合わないって言って出さ
れても流しに捨ててそう。あれだ。僕には水分だけで十分とか言って天然水もしくは紅茶だけ優雅に飲んでそ
う。そうそう、右手にドストエフスキー著の愛読書を持ってね。家には執事とメイドがいて、学校の送り迎え
はリムジン。いや、徒歩だって事くらい知ってるよ?でもこれはあくまで私の想像だから。で、愛馬は真っ白
の毛並みをしていて名前はファルシオン。庭にあるバラ園で放し飼いにされているの。どう?
  
「、病院行って来い」
 
 

そうは言っても竹中君が好きなのだ。マジで好き。病院には行かなかったけど眼科には行った。問題は無いか
らコンタクトレンズのお手入れには余念を欠かさずにとの事だった。だから先生に言われた言葉を一言も違わ
ずに親友のみっちゃんに報告したら、あろう事か盛大に溜息を吐かれた。何で。あんたのそれは頭の病気だね
とか言われるけれど反論が出来ないのが悔しかった。ああ馬鹿だよ。私は竹中君馬鹿だ。気違いレベルにまで
達していると分かっているけど、誰にも迷惑をかけてないし本人の耳にだって届いていないんだからこれ位は
勘弁して欲しい。分かってるよ、いい加減みっちゃんも私の話聞き続けるのにも飽き飽きしてるんでしょ。だ
けど積極的に話しかけたり何だりとアタックするなんて私には絶対無理だから。え?何?これだけ竹中君への
愛を力強く語れるのに?それはまた別だよ!うあー、どうなんだろ。竹中君ってドーナツとか食べたりするの
かなあ。気になる気になる気になる・・・・。竹中君に聞いてみたらとか言うけど、そもそも同じクラスなの
に接点すらも無いからなー・・・。でも喋ったとしても緊張しすぎてガチガチになっちゃいそう。どっちにし
ろ駄目だこりゃ。

「さん?」
「うわあっほおぉう!!!・・・はいっ!!」
「・・・面白い返事をするね」 
 
竹中君だった!竹中君だった!!竹中君だった!!!何で気づかなかったんだろう。肩に手を置かれている、
初めて言葉を交わしたと同時に接触までしてしまったよ。今日は記念日だ。不思議そうな瞳で見てくる竹中君
はいつも遠くから見ているのと違って髪の毛は柔らかそうだし肌も想像以上に白いしで、神掛かった美しさを
していた。やばい緊張する・・・!!
 
「ど、どどどどうも・・・っ」
「はい、こんにちは」  
 
ああ!!死にたい!!変な声を竹中君に聞かれてしまった!!男の子が苦手とは言っても話しかけられて盛大
にどもる程ではなかったはずなのに、竹中君だからなのか!恥ずかしすぎる新発見だ!横で堂々と笑っている
みっちゃん、後で覚えてろよ。 
  
「何か今、僕の話をしてるのが聞こえたんだけど」  
 
ばれてる!!ばれてた!!でもそっか。考えたら私、クラスの喧騒に負けないようにと大声で竹中君の話をみ
っちゃんにしていたから、近くにいた男子グループには丸聞こえだったかもしれない。っておいおい。何だそ
の失態。つまりクラス中の人が私の話してる事を聞いてたって事じゃんか。私ってば何て自殺行為をしていた
んだ。冷や汗が背中に伝うのを感じていると、竹中君がさん、と言った。
名前を呼ばれるのは初めてなので嬉しいけど、無言で私を見てくる瞳が怖くて素直に喜べません。どうしたら
いいでしょうか。助けを求めて横を見たらみったんが顔を背けていた。マジで覚えてろよ。 

「・・・竹中君は。ドーナツ、って、食べる?」
  
ガチガチに固まった口を何とかしてこじ開けて声を絞り出せば、蚊の鳴くような情け無い声がようやく出た。
だけどしまった。これだけ聞いたら逆ナンをしているみたいじゃないか。何も考えないで変な質問だけをして
しまった事に気がついたけれど出てしまった言葉は戻ってこない。ああ・・・。もうこれで竹中君の中で私に
対する印象は変な子になってしまったに違いない。せっかくお喋りが出来たのに、第一声が何か色々失敗した
わ・・・。私ってどうしてこう自滅に走るんだろうか。 
 
「ポンデリング、好きだよ」
「・・・え?」  
 
顔を上げる。俯いていたからよく聞こえなかった。聞き逃してしまったと首を傾げると竹中君はもう一度、ポ
ンデリングが好きなんだ、と教えてくれた。斜めに分けられた前髪がふわりと揺れる。竹中君の柔らかい声が
頭に反響してポンデポンデポンデポンデと頭の中を巡った。ていうかなにそれ。可愛いんだけど。そうか。意
外だけど竹中君がポンデを好きだというのなら私は決めたよ!次からミスドに行ったら必ずポンデを頼む事に
する!ていうか頼む!!!背後に回した手を拳の形に握り締めて誓う。
  
「行くかい?」
「え?」  
 
竹中君が、私がした様に首を少し傾げて言った。
 
 「だから、見たいんだろう?」
   
僕が食べてるところ。そう言った瞬間ふわりと。美しさのあまり冷たさの漂う竹中君の面差しに笑みが浮かん
で。ていうか今、竹中君の背後に花が散りませんでした? 
 
「い、いつの間に聞いておられましたか・・・」
「初めから」 
  
そんなしゃあしゃあと。
   
「君となら、行ってもいいよ」
 
特別に。そう言って、竹中君が小さく微笑んだ。



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