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まだ家康と付き合って一週間と少ししか経っていない。お互いを知らなくて当然だ。石田君に 言われた事が気になるんだったら私がこの目で見て真実を確かめればいい。 幸い家康に告白している女の子はまだ見ていない。だから私が家康といっぱいお話して、いっ ぱい一緒に過ごして、お互いの事を知って仲良くなっていけばいいんだ。私の不安はきっと家 康と付き合い始めてまだ日が浅いことから来ている劣等感が原因だと思うから、ある程度時が 経ったら家康がもてる事だってそんなに気にならなくなるはず。その時に石田君に言われた言 葉が正しいかどうか判断すればいいんだ。嫌な予感は千歳の先まで吹き飛ばしてしまおう! ということで良く晴れた天気のいい日曜日。私は新しく出来た友達に誘われてショッピングに 繰り出すことにした。 「お待たせ、鶴ちゃん!」 「あ、さん!」 なんと、私の新しい友達はクラスのアイドル鶴姫ちゃんだ。鶴ちゃんが階段で転んでいたとこ ろを助けてあげて色々お話していたら自然と仲良くなった。こんな可愛いくて素直な子、私は 今まで見たことが無い。私も鶴姫ちゃんくらい真っ直ぐな性格だったらなー、なんて思う。 それくらい屈託のない性格をしている。大好きだ。 「今日行くお店って学校の近くだったんだね」 「そうなんです、孫市お姉さまが教えてくださいました!」 「孫市さんが?ちょっと意外・・・」 「私が探していると以前言ったのを覚えていてくださって、勧めてくれたんです!」 「へえー、孫市さん優しいね!」 「お姉さまはとっても頼りになりますよ」という鶴ちゃん。きっと孫市さんがそこまでしてく れたのって鶴ちゃんだからだと思う。鶴ちゃんって見ていて放っておけない感じがするし。 と言ったら鶴ちゃんは「いえ、孫市姉さまはこの辺一体の地理を把握しいてるようですよ」と すごい事を言った。何それ、孫市さん凄すぎる。隣のクラスの人だけど、今度鶴ちゃん伝いで お知り合いになりたいなと思った。怖いイメージがあるけれど、いい人そう。 「それで、さんは今日は何を買うおつもりなんですか?」 「ん、んー?今日は私のじゃなくてプレゼントを買おうかなと思ってるんだけど」 「あ!それってもしかして・・・!」 「えへへ。そう、家康にね」 やっぱり恋人同士ならでは。昨日の夜はショッピングに行ったら何を買おうかずっと考えてい た。でも学生だからあんまり高価な物は無理だし、と考えて小さなアクセサリーくらいだった らいいかなと思いついた。家康はあんまり装飾品をつけなさそうだけど、シンプルな物だった ら受け取ってくれるかもしれない。 「鶴ちゃんは?」 宵闇の羽の方とやらに贈り物でもしたら距離が近づくんじゃ無いだろうか。と助言をしたら鶴 ちゃんは、「そうですね!私もそうしちゃいましょう」と言った。ので、今日はお互い思い人 への贈り物を買うことに決まった。 早速バスを乗り継いでお店に行くと、そこは女向けの可愛いお洋服からメンズの洒落た服まで を幅広く取り扱うお店で、プレゼント選びにはもってこいだった。鶴ちゃんと興奮しながらあ れが可愛いこれがカッコいいと色々吟味して。それで迷いに迷って結局私が家康にと買ったの は、小さなメタルプレートが付いたシルバーペンダント。 大きすぎないので嫌味じゃなくていいかなと思った。家康に似合いそうだ。鶴ちゃんはハート が半分に割れた、カップルがおそろいで持つペンダントを購入。二人はまだ付き合ってなかっ たような気がしたけれど、鶴ちゃんがノリノリだったので突っ込むことが出来なかった。でも 風魔君なら受け取ってくれるかもしれない。優しいと聞いてるし。「お互い頑張ろうね」と言 うと、脈絡の無い言葉だったにも関わらず鶴ちゃんは「はい!」と答えてくれた。 「でもさ、鶴ちゃんが買ったペンダント結構高かったよね。お金持ちー!」 「そんなことないですよ。ただ宵闇の羽の方にはこれがとっても似合いそうだったので」 「そっかー。でも確かに、好きな人にあげるものは妥協したくないよね」 「はい!ですからきっとお似合いになるはずです!」 ふふ、と笑って鶴ちゃんは頬を染めた。私には絶対まねできない可憐さだ。可愛いなあ。 なんてプレゼントの入った紙袋を見て頬を染める鶴ちゃんに思う。初めて一緒に遊ぶんだし、 このまま帰るのは少し惜しい。どこかでアイスでも食べてお喋りしたいなと思って鶴ちゃんに 持ちかけると快くオーケーしてくれた。せっかくだし、この機会に風魔君との馴れ初めとか聞 きたい。 「じゃあ、一旦駅まで引き返そうか。駅中の方がお店いっぱいあるよね」 「そうですね、そうしま・・・」 そこで突然、鶴ちゃんの声が切れた。視線が私の背後にやられている。何か凄い物でもあるん だろうか。 「鶴ちゃん?何かあった?」 鶴ちゃんが固まったままなのでその視線の先、自分の背後へと私も振り返ってみる。と。 「・・・うそ、」 家康がいた。 家康が、女の子と腕を組んで歩いてた。車道を挟んで向かい側の遊歩道を女の子と笑いながら 進んでいる。女の子はおしゃれな可愛い洋服に身を包んでいて家康も私服だ。明らかにデート と言う雰囲気。それ以外にありえない。腕を組んで笑いあって、なに、それ。 「ゆっ、許せません!!私、今から行ってとっちめてきます!!」 「え、いいよ!鶴ちゃんがそこまでしてくれなくても私、大丈夫だから!」 「何を言っているんですか!全然大丈夫じゃありません!!」 大丈夫じゃない、そりゃあ全然大丈夫じゃないけど。でもここで感情に任せて行動してしまえ ばそれこそ、私は抑えが効かなくなって家康と女の子に喚き散らしてしまいそうで。 だけどもしそれが勘違いだったら家康に呆れられて愛想をつかされてしまうだけだ。慎重に行 動しなくちゃ。家康を信じなきゃ。目の前を通り過ぎていく楽しそうな二人に、私の目の奥は 痛くなってくるけれど。 「ありがとう、鶴ちゃん。でも勘違いってことも有り得るんだし」 私は、彼女だ。家康の彼女なはずだ。家康はいい人過ぎてみんなの好意を無碍に出来ないだけ だから、私が理解してあげなきゃ。余裕のない、嫉妬してばかりの女は醜い。 でも。 石田君の言葉が頭に蘇ってくる。家康は人を裏切るとか、お前もせいぜい気をつけろとか。 なんで今に限ってそんなネガティブな事を思い出すかなと悔しくなる。家康を信じたいのに、 どうしてこうも上手く事が働いてくれないんだろう。 「ごめんね、鶴ちゃん。私、今日はもう帰るね」 「え、え、さん・・・!」 「鶴ちゃん」 顔を上げられない。誰かと顔を合わせたら人間が嫌いになりそうで嫌だった。せっかく今日は 鶴ちゃんとも仲良くなれて楽しく過ごせたのに。最後の最後で顔を合わせられなくて申し訳な くなる。鶴ちゃんの戸惑った声音に、責任を感じてくれているのが分かった。優しいから私の 見方をしてくれるだろうけど、このことに鶴ちゃんを巻き込みたくは無いから口止めはしてお かなきゃ。 「家康にはこのこと、黙っててね。お願い」 「・・・さんが、そう言うならそうしますけど」 「うん、ありがとう。じゃあまた明日ね、鶴ちゃん」 「は、はい、また明日です・・・」 鶴ちゃんに手を振って振り返らずに帰途を走った。走っている間は何も考えなくてすむ気がし たからだ。でも実際はそう上手くいくわけもない。 彼女がいると家康も分かってるんだから、浮気するようなことはしないはずだと思っていた。 もしあれが姉妹や親せきだったとしても、腕を組んだりなんて誤解を受けそうなことはするべ きじゃないと思う。家康だって自分がもてることは分かってるんだから、そう言う事には人一 倍気を使わなきゃいけないんじゃないだろうか。 家康はどう思っているんだろう。というか家康は本当に、私を好きなんだろうか。 駄目だ分かんない、家康が分からない。頭がごちゃごちゃで家康を責める言葉しか浮かんでこ ない、明日、学校だ。どうしよう、家康にどう接しよう。このペンダントはどうすればいいん だろう。ぐちゃぐちゃの頭がスパークを起こすようで、家に着いた私はベッドに入って声を殺 して泣いた。