「え、じゃあ竹中半兵衛と一緒に帰ったのか!?」
 
「うん」
 
 
 
かすがちゃんが驚いたことで三人が囲む机ががたりと動いた。机の上の弁当
が揺れたのをすまない、とかすがちゃんが謝る。その横でもくもくとお弁当
を食べる市ちゃんは静かに私たちの話を聞いていた。
 
 
 
「ちなみに今日の朝は半兵衛が委員会があるって、一緒にこれなかったんだ
 けどね」
 
「『半兵衛』!?」
 
 
 
うん。そこいわれると思ったけれどね。昨日初めて喋った男の子を次の日名
前で呼びすてだもんね。それには私だって驚いてる。でもそうなったのには
一応ちゃんとした理由があった。市ちゃんが手を止めて私を見る。
 
 
 
「、市その話、聞きたい・・・」
 
「あ、うん。本当は昨日の朝名前で呼んでって言われたんだけど、まだお互
 いのこと知をよくらないのに呼び捨てって失礼だと思って断ったんだ。
 でも帰りに、いつ呼び捨てにしたって同じだって言われたの。それで明日
 竹中君って呼んだらひどいからね、とまで言われて・・・」
 
 
 
私がそういうとかすがちゃんと市ちゃんは顔を見合わせて二人にしか分から
ないアイコンタクトを取った。一体なんだろうとそれを見ていると、急に横
から低い声がした。
 
 
 
「え?何々、何の話?おもしろそー。俺にも聞かせてよ」
 
 
 
振り返るとそこにいたのは、えっと、・・・・あ、猿飛くんだ。が、いた。
かすがちゃんが何かで猿飛君のことを話していたからぎりぎり覚えていた。
 
 
 
「ちゃん?今、何かすごく面白そうなこと話してなかった?
 竹中半兵衛がどうとかって」
 
「で遊ぶな。あっちにいけ」
 
 
 
間髪いれずにかすがちゃんが猿飛君につっこんだのを当の猿飛君は気にもせ
ずに「何かすが、やきもち?」と言う。この二人、仲がいいなあ。
言いたいことが言い合えるのって良好な人間関係が築けてる証拠だよね。
傍観していると猿飛君はこちらに向き直ってしまった。
 
 
 

「で、ちゃん。あの知らぬ顔の半兵衛と呼ばれてる竹中半兵衛と知り合っ
 たきっかけは?二人はつきあってるの?」
 
 
 
付き合ってる!?
昨日初めて喋ったばっかりだというのにそれはない!なんて恐れ多い!
というか知らぬ顔の半兵衛って何の話だろうか。次にあったときに直接半兵
衛に聞いてみようと心に決めると猿飛君が「どうなのよ?」と聞いてきた。
猿飛君の質問に答えようものなら、冷やかすだけ冷やかして皆に言いふらす
んじゃないかと疑ってしまう。だって、失礼だけど何か猿飛君って軽そうな
のだ。今だって実は猿飛君とは初めてまともに話をしたし。名前も知らない
というのではないけれど、それでもいきなり初対面の人に私と半兵衛につい
てを話したくはない。
 
 
 
「・・・・内緒」
 
「あ、ずりい!」
 
 
 
あんまり目立つのは好きじゃないのだ。
猿飛君のような常にクラスでも目立ってる人に話をしてあまつさえ、それを
言い振らされたりなんかしたら。だめだ。絶対言うわけにはいかない。
私は胸に強く誓った。
 
 
 
 
 
 
 

「そろそろ話してくれてもいいじゃんかー。ねー、ちゃん?」
 
 
 

が、意外と猿飛君はしつこかった。放課後、一人でロッカーにあるノートの
整理をしていた私の元へこりずに猿飛君が来た。整理はしているけれどその
実私は半兵衛を待っていた。
委員会で朝は一緒に行けなかったけれど、帰りは絶対に大丈夫だと言われた
ので待ち合わせをすることになった。だけどこの状況はまずい。もし今半兵
衛が来たら誤解させてしまうかもしれない。変なことになる前に猿飛君に帰
ってもらわないと。
 
 
 
「というかここ廊下だし。人が通るような場所で言うわけないでしょ」
 
「あ、じゃあ二人きりだったら教えてくれるの?」
 
「二人きりでも教えない。それにしつこいよ」
 
「・・・俺様口は堅いよ?」
 
「そんなこという人が一番信用できないの」
 
「・・・・・・はいはい、降参ですよ」
 
 
 
俺様もかわいい子には嫌われたくないしね。そんな怒らないで。などと言っ
て頭をぽんぽんとたたかれる。通る人の視線が刺さって痛い。当たり前だ。
猿飛君は学校でも人気が高い男の子なのだ。女子の視線がそれはもうちくち
くと刺さる。加えて何より、猿飛君が今自分にしているのは小さい子をなだ
める行為だ。とてつもなく恥ずかしいし、免疫のない自分がにくい。
顔が赤くなるのが分かる。
 
 
 
「・・・からかわないで」
 
「赤くなっちゃってかわいい。あの竹中半兵衛が気に入ったのも分かるかも」
 
「・・・かすがちゃんに言いつけるよ」
 
「ちょっ、それは勘弁!」
 
 
 
見かけによらずおっかない子だね〜。と言って猿飛君はそのままバイバイと
手を振ってどこかへ行ってしまった。ようやく解放されたと息を吐く。
はあ、良かった。
 
 
 
「」
 
「きゃああ!!」
 
 
 
急に肩に置かれた手に驚いて振り返ると半兵衛が立っていた。鞄を持ってい
るってことはもう帰れるんだな、と思って半兵衛の顔を見ると。
 
 
 
「なんか、機嫌、わる・・・」
 
「おいで。」
 
 
 
質問をさえぎって半兵衛は私の手首をつかんだ。そのまま歩き出して、引き
ずられるようにして着いたのは近くの空き教室だった。半兵衛が入っていく
のに私も続く。
 
 
 
「・・・どうしたの?半兵衛」
 
 
 
がたん、と机がなった。








next