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いい意味で裏切られた。●のかわいさは底なしだった。
いつもの電車に彼女がいないことに内心僕はすごくあせりを覚えた。皆勤賞
の候補に名前が上がるくらいだ、まじめな彼女が学校を休むだなんてあまり
考えられない。だとすれば考えられるのは遅刻だろうか。
以前電車でつり革につかまって眠そうにしてたのを思い出して、彼女ならあ
りうると思った。時計を確認すれば、次の電車でも学校には十分間に合う。
僕は●を待つことにした。
 
 
 
それから少しして来た彼女を見ると、やっぱり遅刻のようだった。
走ってきたんだろう、髪が少し乱れている。その少し乱れた姿がいつも電車
でみるのと違って新鮮に思えてかわいいと思った。●。
最近ではもう見ているだけでは我慢ができないと思うようになっていた。日
に日に思いが強くなる。向かいのホームをボーっと見つめる瞳、俯いた頬に
少しかかった髪。その何もかもが僕の目をひきつけた。●が、ほしい。
その瞳に僕を映してほしい。その小さな体を力いっぱい抱きしめたい。
こんな事を思うのは初めてだ。今まで誰かを思うことなんて僕には一度だっ
て無かったし興味もなかった。なのに、今、僕の目の前には●がいる。
そう考えるだけで僕は以前の僕ではなくなる。変だ。彼女をもっと知りたい
だとか、僕を知ってもらいたいと思ってしまう。僕の存在に気づきやしない
かと期待して目線を送ってしまう。そうして心は今すぐにだって、出来るな
ら彼女をどこかに連れ去ってしまいたいと望む。
とにかく、話をしてみたいと思った。行くなら、今しかない。
自分の容姿がいいのは自覚している。やさしく声をかけていい印象を持って
くれるだけでいい。それが出来れば後はどうにでもなる。
肝心なのは最初だ。まさか、僕がこんなことを考えているだなんて彼女はま
ったく思わないだろう。笑ってしまいそうになる。まるで赤頭巾と狼のよう
だ。まあ、僕は狼よりうまくやってみせる自信はあるけれど。
気づかれないように、僕はそっと●に近づく。
 

おはようと声をかけると、横に僕がいたのに気づかなかったらしい彼女は酷
く驚いた様子で僕を見た。彼女の方が身長が低い分、見上げてくるのが可愛
かった。驚きに見開かれた瞳は、まあ予想していた通りの反応だ。
けれど●がとっさに僕の名前を口にしたのには僕が驚いた。
僕が突然彼女の側に現れたから驚いたんだと思ったけれど、そうではなかっ
たらしい。僕を知っていたんだと、嬉しくなる。驚いたのは、知っている僕
に話しかけられたからというわけだ。けど、良く考えたら僕の名前を同じ学
校の生徒が知っているのはなんら珍しいことではないと思い出す。
不本意だけど、色々あって僕の名前は学校では結構知られてしまっていた。
そのことに舞い上がっていた気持ちが少し複雑なものになったけれど、目の
前の●は緊張しているのか頬を赤く染めていた。
それがあまりにかわいくて頬が緩むのを隠そうと彼女に微笑めば、さらに頬
を紅潮させた。純情なその反応が可愛くて、先程のことなんてそれでどうで
もよくなってしまった。
遅刻の理由を尋ねればやはり寝坊だったのには心の中でだけ笑った。彼女ら
しい、目覚まし時計の設定をミスしたりするなんて。だけど、そういう馬鹿
なところも好きだと思った。彼女の赤い頬を見ていると、どれ程まで赤くな
るのかと興味が湧く。意地悪だけれど、もっと照れた顔が見たいと考えて、
僕は正直に彼女を待っていた理由を言ってみることにした。
まあ結果的に僕の意地悪は彼女には効きすぎたようだけれど。思った以上に
嬉しかったのは事実。ただつられて僕まで顔が赤くなってしまったのは誤算
だった。その後に入ってきた電車に自然な流れでそのまま●と乗って。
これ以上に無いほど全て上手く行ったと言う訳だ。
 
 
 
 
 
計算どおり完璧にことが運んだことに満足して彼女を見ると、目が合った瞬
間に僕を見る●の瞳に熱が宿っているのをしっかりと見てしまった。
その瞳の熱に僕は不覚にも心臓が握られたように痛くなった。それから唐突
に僕のことを王子様みたいだと言った純粋な彼女に、ようやくどうしてあん
なに初めて会った僕に頬を紅潮させるのかが分かった。
そもそも僕の名前を知っている人は噂を知っているはずの人間だから、そん
な反応はしないはずなんだ。何も知らない彼女がおかしくて、僕はたまらず
笑ってしまった。名前は知っているのに、僕についてはほとんど、全く知ら
ないなんて。なんてかわいいんだろうか。
だけどその日の学校の帰りに●を待って一緒に帰ろうと誘えば。
僕への反応は少しよそよそしいものに変わっていたから、それでようやく誰
かから僕についてを聞いたんだと気づいた。余計なことを、とは思わない。
いずれ知ることになるとは思ってたし、●には隠すつもりはなかった。
ただ、その後も●が僕を王子様だというのにはさすがに力が抜けた。
 

そうだね、なるべく●の望む王子様でありたいとは思うけれど。
●に嫌われたくはないしね。だから今は、それで良いと思うよ。









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