お昼休み。私とかすがちゃんとお市ちゃんでお昼を食べていると、会話は自
然と朝話した竹中君のことになった。どうやら物腰や口調こそ私が言ったと
おりだけれども、それ以外の二人が言う竹中君は私のイメージとだいぶ違っ
ていた。まず、かすがちゃんが言うに竹中君が優しく微笑むというのは見た
ことがあるやつを連れて来いというくらいに有り得ないらしい。
いくらなんでもそれは、と思う。電車で遠くから見てたときは大体本を読ん
でいたからどんな表情をするのか知らなかったけれど。
「今日始めて話したけど結構笑ってたよ。すごく綺麗だった」
「もしかしたらちゃんだからじゃないかと市、思うの・・・」
市ちゃんがそう言ったことに、かすがちゃんはそのほうがまだ納得できるな
、と言った。そんな。その方がまだ納得できるって竹中君は学校でどんな人
なのだろうかとちょっと実際に見てみたくなった。
そりゃあもしそんな竹中君が私の前でだけ笑うなんてことだったらすごく嬉
しいことだとは思うけれど、私だからってことはないと思うんだ。
ああいうちょっとした会話の中に自然に甘い言葉とかをいれるの、すごく慣
れてるように感じたし。でもそういうところが。
「物語から抜け出たような王子様だと思うんだけどな、竹中君」
ふう、と溜息を吐けば、私の言葉にかすがちゃんが綺麗な眉をひそめた。
かすがちゃんは美人なのにそんな怖い顔をしたらもったいないよ!と思う。
2人の顔を見て思い出した。関係ないけれど、この二人は本当に美人だ。
私を含めた三人でよくいる事が多いけれど、時々神様って本当に残酷だな、
と二人といると感じる。いや、そうじゃなくて、よく考えると私の周りは美
しい人ばっかりなのだ。この二人はもちろん、竹中君も当然そうだし、話し
たことはないけれどクラスメイトの伊達君や真田君や猿飛君もそう。
というかこの学年は顔立ちがいい人がやたら多いと聞いている。だけど私は
そういう女の子たちの噂にまったく興味がなくて顔も知らない人がほとんど
だった。伊達君たちを見てもああ、確かに整ってるね、と思う程度だ。
それなのにどういうわけか私は竹中君にだけピンと来てしまったのだ。最初
は恐ろしいほど整った顔立ちに確かに目を奪われたけれど、今は何ていうか
内面に惹かれてる気がする。今日した会話で好きって気持ちが大きく膨らん
だのが分かった。王子様っぽいとしか竹中君の性格を説明できない私って夢
見る乙女どころか痛い子だな、とは思うけれど。
「いや、がそう思うならそれを尊重するが、
この学校で竹中半兵衛を知っているやつらはどちらかというと悪の使いだ
と思ってるやつの方が大半だと思うぞ。」
・・・・・竹中君は、そこまで言われるって何かやったんだろうか。
それともそっちが素で、私に見せてるのは嘘の竹中君だったりするのだろう
か。それだったら私で遊んでいるのかな。え、うそ。
いや、でもあの微笑が偽りな訳がない!・・・と、信じたい。あれ、でもそ
ういえば竹中君に王子様みたいって言ったらえっと確か『それでいいよ』と
か言ってたっけ。
あの時は夢見がちな痛い子ってことで笑われたんだと思ったんだけど。
・・・ちょっと待ってみよう。自信がなくなってきた。何がそれでもいいな
んだろうか。うん、決まってる。君がそう思うならそう受け取ってもいいよ
って、そういう意味だよね。竹中君はそういう風に言ってたよね。
待って。それじゃあもし、竹中君が実際王子様とかじゃなかったとして、私
が勝手に王子様みたいって言ったのが、竹中君には勝手に私が夢を抱いてい
るように思えておかしくて、笑ったんだとしたら。・・・・竹中君は本当は
私が思うような人間じゃないってことになったりするんじゃ・・?
いや。考えすぎだ。いくらなんでもここまで来ると竹中君に失礼だ。きっと
ちょっと悪い人をやっつけたのにそれが間違って広まってしまったとかそん
なのだ。うん、それでいこう。
「、いつまでかんがえごとをしているつもりだ」
「次、全校集会だから・・・、移動だって、聞いた」
「わ、ごめん、今行く!」
体育館に着くともう結構な人数の生徒が並んでいて、急いで自分の場所に向
かった。整列が終わって壇上に織田校長先生が立ったのを見てああ、あの先
生ってことは今日の集会は穏やかな内容じゃないんだろうな、と思った。
大体この学校は集会も授業もどの先生がやるかによって大きく内容が左右さ
れてしまうところがある。織田先生は、完全に生徒を見下してると思うんだ
けど、なんだかんだでいい先生だ。威圧感は半端ないけど。
そんな今日の集会は単なる特定の生徒の表彰だった。ああ、良かった。説教
だったりしたらあのどすの聞いた声を延々聞かされることになってしまうの
だ。それは嫌過ぎる。そんなのに比べたら表彰なんてかわいいものだ、そう
思っていたけれども、その表彰は思いのほか長引いた。賞状やトロフィーが
多く、皆いい加減に拍手するのにも疲れてきて全体的にマンネリムードが漂
ってきた。こそこそと前後で話し出す人まででてきてしまっている。
それなら私もこれにまぎれて竹中君を探してみよう、とこそこそ周囲を見渡
してみる。どの辺だろうか、隣のクラスってことはかなり近くだとは思うん
だけれども。
あ、いた。
後ろのほうに白い髪を発見。顔を見たいと思って少し背伸びをする。
「え・・・。」
思っていた以上に冷たい表情をした竹中君が見えて、意図せず口から声が出
てしまった。無表情というか、何か。綺麗な顔立ちなだけに余計に人形のよ
うに見えた。朝見た彼の笑顔は幻なんじゃないかと思うくらいだ。
お昼休みにかすがちゃんとはなした内容が、頭によみがえってくる。なんだ
か急に不安になってきた。目の前の竹中君と朝一緒に話した竹中君と、どっ
ちが本当の竹中君なんだろうか。
『いいと思うよ、それで。』
私は竹中君を知らなさ過ぎる。
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