どうしよう。
半兵衛。
文化祭が始まってすぐのこと。私はお市ちゃんと看板を持って校内を歩き回
って宣伝をしていた。その時偶然私は向かいから来る浅井先輩に気がついた
ので、せっかくの文化祭だしと思ってお市ちゃんに少し浅井先輩と校内を回
って来るように言った。そしたらお市ちゃんは嬉しそうにありがとうとお礼
を言って浅井先輩のもとにかけていった。
私は文化祭の準備を手伝って来なかった分を埋めようと、今日は働くことを
決めていたので二人の幸せそうな背中を見送ると宣伝に戻った。
午前一杯は仕事があるけれど、午後はフリーだ。
交代になったら一番に半兵衛に会いに行こう。そういえば一年生の劇が凄い
と聞いた。一緒に見に行くのもいいかもしれない、などと頭の中で半兵衛と
回る予定を立てていたたらいつの間にか校舎内でも人の少ない場所に来てい
た。折り返そうと思って体を返すと、突然声をかけられた。
振り返ると同じクラスの女子が三人立っている。ほとんど話をしたことの無
いグループの人たちで自然と身構えてしまう。と、一番前に立っている女の
子が言った。
「ごめん、さん。ちょっと付き合ってもらっていい?」
その言葉に瞬時にその後よくある展開が頭によぎったけれども、目の前の女
の子達にそういう雰囲気は全く無く、むしろ親しみやすい笑顔を浮かべてい
たために私はその言葉に頷いた。
そうしてついて行った先は階の一番端にある視聴覚室だった。
中に看板があるから良かったらそれも宣伝に使ってほしい、と言う彼女達の
言葉に何か引っかかるものがあったけれども分かったと返事をしてほとんど
使われずに物置と化している視聴覚室に足を踏み入れると、凄い速さでドア
を閉められた。やっぱりね。
溜息をつきたくなる気持ちでドアを見るとご丁寧にと鍵までかけられていて
そしてドア越しに彼女達の本音が聞こえた。
「自分勝手すぎるんだよ。一回も準備手伝わなかったくせに私達と同じよう
にバサラ祭を楽しもうとかありえない」
「てか竹中君と付き合ってるんだっけ。いくら優先順位が彼氏が上だからっ
て毎日皆より先に帰って悪いとか思わないわけ?」
「今日くらいそこで大人しく反省しててね。バサラ祭が終わったら此処開け
てあげるからさ」
そうして足音が遠ざかっていった。最もな言い分だった。
あまりにも的をいてる言葉に私は返す言葉も無くその場に座り込む。彼女達
はクラスの皆が言わないでいてくれていた気持ちを代弁したのだ。私が反論
をしたところで、これはクラス皆の意思だろうから助けてくれる人はいない
かもしれない。たとえ誰かが助けてくれたとしても私自身がありがとうと素
直には言えない気がした。だってこれは私が受けるべき当然の罰のような気
がした。だから私はこのことについて深く考えるのをやめた。
一時間くらい経ったかもしれない。
体育座りをして膝に伏せていた顔を上げて周りを見渡してみる。この視聴覚
室はもはや荷物置き場と名前を変えても良いくらい、とにかく物に溢れてい
て、歩き回れるスペースはほとんど無かった。その上天井高く積み上げられ
たダンボールで閉塞感がさらに増している。おまけに凄く埃っぽい。
使われていない教室だから当たり前だけども。やることも無いので窓に目を
向けると青空が見えた。白い雲、青い空。今日は絶好のバサラ祭日和だとぼ
んやり雲を眺める。と、校内放送が入った。
『皆さん、午前の部は無事終了しました。これよりお昼休憩の時間となりま
す。お疲れ様でした』
ああ、終わってしまった。
放送が切れるのと同時にタイミングよく私のお腹が鳴る。そういえば朝は忙
しくてごはんもあんまり食べて来なかった。いや、お腹なんてほっといても
平気なんだけど。
それより半兵衛に午後見に行けないってことを伝えに行きたい。何もできな
くていいからそれだけしたい。半兵衛は私が約束をすっぽかしたのを知った
ら怒るだろうか、悲しむだろうか。悲しむ姿はちょっと想像ができないけど
、私のこと探してくれるだろうか。いや、その前にまずどうして来ないのか
不思議に思うよね。それとも忙しすぎてそんなこと気にしてられないかな。
半兵衛は真面目だからお仕事頑張ってそうだ。体、大丈夫かな。午後も半兵
衛は接客をするんだろうから今の休憩時間だけでもちゃんと休んでほしい。
私も、半兵衛の執事姿が見たかったし、後夜祭もなんだかんだ楽しみにして
たけど、でも。
「ごめん、半兵衛。行けないや」
これで嫌われたらどうしよう。
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