「じゃあ俺らのクラスはお化け屋敷で決まりな〜」
前田君の元気な声が教室に響く。
今日の午後の授業は文化祭についてきめるロングの時間。せっかく顔の良い
男女が多いのだからそれを売りにして行こうという案もないではなかった。
だけど隣の、半兵衛のクラスが喫茶店と来ているので、私達がそれに対抗す
る必要はない。わざわざ競わなくても別のジャンルで客をつかもうという事
で今年はお化け屋敷に決まった。
「当日は男子全員お化け役なー」
係り決めに入る、というところで前田君が言ったことに男子数名からブーイ
ングが入った。うん、強制はちょっとひどいかもしれない気がする。あ、で
もそしたらお化け役を女子が何人かやらなきゃいけなくなるんだ。あの凄い
お化けメイクをするのか・・・。ちょっと教室出づらいな・・・・・・・。
良い宣伝にはなるかもしれないけど半兵衛にはあんまり見られたくない。そ
んな事を思う。
「Hey!ぐだぐだうるせーぞ。お化け役が嫌ならテメーら一体何をやるつもり
だ。言ってみろ」
伊達君が文句を言う男の子達に向かって叫んだ。
伊達君は一目で人をひきつける雰囲気があるから、そんな人が言う一言は効
果覿面だったらしい。教室は一瞬にして静かになった。
「ありがとうな、伊達政宗!」
前田君のお礼の言葉が響いて、係り決めは続行となった。ひょっとして前田
君が男子全員を強制的にお化け役にしたのって女子のためだったりするのだ
ろうか。いや、考えすぎかな。黒板に書かれた係りは合計7個で、どれにし
ようか迷ったので周りから聞こえてくる声に耳を傾けてみると。
「某は大道具を希望いたす!ぬああぁぁぁ!!!みなぎるぅあぁぁぁ!!!」
という威勢の良い声・・・真田君だっけ。元気な人だなあ・・・の声とか、
「旦那は部活優先だから係りには入れないでしょーが。俺様はカメラ係にし
ようかな。楽そうだし」
というあまり空気を読まないやる気のない声が聞こえてきた。
「・・・は何にするの?市・・・と同じのがいい・・・」
後ろの席の市ちゃんが私の制服をつかんで引っ張ってくる。
それが可愛くて、私もできればそう言ってくれる市ちゃんと同じ係りになり
たいなあと思った。
「今のところ看板係が良いなあと思ってるんだ。校内を宣伝がてら見て回れ
るし、市ちゃんも浅井先輩と行きたい所とか事前にチェックできて良いと
思わない?看板係は嫌?」
「ううん、が・・・そこまで市のこと考えてくれて・・・市、うれしい。
・・・市も、看板係がいいと思うの・・・」
「うん、じゃあ黒板に二人の名前書いてくるね」
市ちゃんは浅井先輩と付き合ってるから自由時間の多い係りのほうが二人で
過ごせて良いと思う。それに実は私も半兵衛と見て回れたら、なんて考えて
いたりするのだ。それには看板係が一番都合が良いと思うんだよね!
看板係は二人だけしかなれないけれど、かすがは当日茶道部を優先しなきゃ
いけないらしくクラスとは関係ないと聞いた。だから人数には問題なし。
茶道部顧問の上杉先生が大好きなかすがは上杉先生について話す時は恋する
乙女の顔しているのだ。可愛いよ、恋する乙女。ってあれ、そういえば猿飛
君はどうなんだろう。ま、いっか。席に戻ると市ちゃんが言った。
「は、・・・後夜祭、今年はどうするの・・?」
「あ、そっか」
市ちゃんの言葉にはっとする。
毎年の後夜祭の最後にはダンスがある。この学園の伝統の一つで必ずダンス
で幕引きとなるのだ。市ちゃんが言いたいのは私がダンスの相手に誰を希望
するのかだった。当然踊るなら半兵衛が私の希望するパートナーだけれど、
実はこの"希望"がなかなかの曲者なのである。変に趣向を凝らした伝統に余
計なことを、と地団太を踏みたくなる。好きな人と踊れるのは間違いなくい
いことのだけれども、付き合ってる人同士にしてみればこの後夜祭のダンス
は試練というか災難と言っていいイベントなのだ!
「祭りに恋に!盛り上がっていくぞー!!」
「おおおぉぉぉぉっっ!!!!!!!」
前田君の声にクラスの全員が一丸となって応える。
自分のクラスの団結心に誇らしくなるのと同時に、これから忙しくなる日々
と後夜祭のダンスを思い、文化祭が穏やかに終わるはずがないんだろうなと
少し不安な気持ちになった。でも半兵衛のタキシード姿を見るまでは死ねな
い!!生きなきゃ!!
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