「おはよう、」
 
「おはよう、半兵衛」
 
 
 
朝の挨拶。
その一言で私の一日が始まるようになった。私と半兵衛の仲は昨日晴れて恋
人というものになった。これからは堂々と半兵衛の横を歩けるんだと思うと
嬉しくもあり、かなり恥ずかしくもあった。
 
 
 
「ね、そういえば半兵衛は委員会何に入ってるの?」
 
 
 
気になったことは昨日色々あったせいで結局聞けなかった。クラスも違うか
ら聞くとしたら朝のこの時間か帰り道しかない。二人で過ごす時間の少なさ
を思うと寂しくなるけれど、こればっかりは仕方がないことで。
 
 
 
「風紀だよ。月に一回朝校門の前で制服の検査をするんだ」
 
「あ、そういえば立ってるよね、風紀の人」
 
「そういうは生物委員だってね」
 
「あれ、知ってたの?」
 
「聞いたんだよ」
 
 
 
にっこりと笑う半兵衛があまりよろしくないのはこの短い付き合いで私が気
づいたこと。君のことなら全部分かるよ、今のはそんな笑みだ。知らないと
ころでいつの間にか私の情報を手に入れている半兵衛のそういうところって
本当に何を考えてるのか読めない。一体誰に聞いたんだろうか。多分私のク
ラスにいる友達に聞いたんだと思うけど。
 
 
 
「なんてったってあの明智先生が担当している生物委員会だ」
 
「そうなの、もう本当に寿命が縮んで仕方ないよ。特に何かされるとかはな
 いんだけど、ホルマリン漬け見て笑ってるのだけは気味が悪くて・・・」
 
「ふふ、心中をお察しするよ。だけどもうそろそろ委員会も終わりだしね」
 
「え?終わり?」
 
「文化祭期間は特定の委員会以外は活動がなくなるだろう?」
 
「あ、そういえばそうだった」
 
 
 
昨日の帰りにクラスの前田君が言っていた言葉を思い出す。
今日はクラスの出し物と係りを決めるんだった。なんていったって今年は高
校生活最後の文化祭なわけで。私の学校の文化祭、通称バサラ祭はその規模
の大きさと派手さでとっても有名なのだ。その後の後夜祭は学園の生徒だけ
での華やかな打ち上げで閉めるのが毎年の恒例で。だから今年も凄い凝った
出来になるんだと思う。
 
 
 
「考えるだけで今から楽しみだなー」
 
「のクラスは何をするかは決まってる?」
 
「ううん、今日決めるの。半兵衛のとこは?」
 
「僕のところは喫茶店だよ」
 
「あれ?けっこう無難だね。半兵衛のクラスってほら、長曾我部君って言う
 血気盛んな人がいるんでしょう?パフォーマンスとかするのかなって思っ
 てたよ」
 
「・・・は嫌なところで勘が鋭いね」
 
「え?するの?パフォーマンス」
 
 
 
何それ。見なきゃ。
半兵衛が踊ったり何かするんなら絶対に見に行くよ私。もし半兵衛が本気で
踊って歌ったりしたらその辺のアイドルとか霞む。ついでに私も倒れると思
うよ。
 
 
 
「残念だけどパフォーマンスはないよ。執事の格好はするけどね、不本意だ
 けど」
 
「え」
 
 
 
執事・・・・?
ちょっ・・。誰ですか、その案を出したのは。最高じゃん。言うことないよ
。提案者の人と握手したい。だってつまり半兵衛がタキシードを着るってこ
とでし。うわあ、それは全世界の女の子が願う夢だよ。半兵衛がタキシード
に腕を通すんだよ?それで「お嬢様」とか柔らかな声で言われてごらんよ。
映画化決定だね。
 
 
 
「?」
 
「あ、うん。大丈夫。半兵衛のタキシード姿絶対かっこいいだろうなって思
 ったの。私必ず半兵衛のクラスに行くからタキシード姿で迎えてね」
 
「分かった。がそう言うなら執事の格好も我慢する」
 
「うん。半兵衛のかっこよさは私が保証する。王子様のような白タキシード
 の方が私のイメージなんだけど、それじゃ給仕する人じゃないからね」
 
「まだ王子様だと思ってるなんて、の中の僕のイメージは
 どうなってるんだろうね」
 
「外見の話だよ。女の子に無理やりキスするような人は王子様とは言わない
 よね」
 
 
 
そういって半兵衛の顔をどうだ。と思って見る。
いつも半兵衛は恥ずかしいことを言って私の赤くなった顔を満足そうに見る
から、たまには私が半兵衛をからかってもいいんじゃないかと思って、昨日
のキスについて暗に言うと「言うようになったね」と半兵衛がいい顔で笑っ
た。・・・笑った。
 
 
 
「ここで昨日の続きをしてもいいんだよ?」
 
 
 
割とはっきりと言ったその声に周りの注目が一気に私たちに集まった。
ここ。その言葉が頭に響く。
迷惑にならないようにと小声で喋っている私たちが今居るここは。周囲の視
線が一気に私達に向いたことで周りの状況を理解した私はすぐさま思いっき
り顔を下に向けた。今、私の顔は真っ赤に違いないだろうけれど、そんなこ
とは気にしていられない。聞かれた。半兵衛が今言った言葉をこの場にいる
人たち皆に聞かれた。周りの人達全員の視線を感じる。
頭ががんがんする。昨日の続き。その言葉にこの場の人々は何を想像するだ
ろうか。よりによって半兵衛はその言葉をそれっぽく言った。私の頭に嫌で
も昨日の出来事が思い出されて、頭から湯気が出そうになった。半兵衛が横
で涼しい顔をして私を見ているであろうことが見なくても分かる。
あああああ!!このドS!!!!!!わざととはいえ、からかった私が悪い
とはいえ、なんっでよりによって電車内でそんなこと言うかあああ!!!!!!!
 
 
 
 
 
 
 
駅に着くまでの車内の沈黙は一生にあと何度経験することができるだろうか
と全身疲労でぐったりした私は思った。そんな心底疲れきって涙目の私の顔
を見てふふ、と半兵衛は満足そうに笑うのだ。たちが悪い。
 
 
 
「僕をからかうなんてはかわいいね」
 
 
 
半兵衛は絶対からかっちゃいけない。私は今日一つ、そう学んだ。







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