世の中には。
信じられないようなことがたくさんある。
それはどれもこれもテレビや新聞などで知るものが大半だから、身近に感じ
ることができなくて私はずっとこう思っていた。これは特別なケースなんだ
、と。できちゃった結婚やら若年妊娠、病気で死んでしまう前に彼とすごし
た一年だとか。
きっと少女漫画であればそれらの要素はストーリーに刺激を与えて読者をひ
きつけるだろうと思う。そういうものでは、運命的なものやことが重視され
るからだ。ただそれが実際に現実の世界で自分の身に起きるかと言うと、そ
う簡単にあるはずがないと思っていたのだけれど。
「半兵衛の彼女、になるのかな・・・」
きちんと出あって会話をしてからたったの二日。思い出しても恥ずかしい。
まだ少ない交わした言葉と共に思い出されるのは二日間の出来事だけだ。
急なキス。帰り道に一緒につないだ手。好き、と言った言葉。
「これじゃ時代遅れの少女漫画だよ・・・」
そう思うのに胸は今日の出来事を思い出してドキドキしていた。
そもそも同じ電車に乗っていた人に恋をするって時点で体が痒くなりそうな
一目ぼれをしてる自分が痛い。しかも私は半兵衛のことを堂々と本人を前に
して王子様とのたまった。少女漫画そのままだ。
でもだって初めてみたとき半兵衛は超綺麗だった。かっこよすぎて一瞬目を
疑った程だし、外見に劣らず話し方だってすごく品があって、それでいて優
しい。目を閉じればすぐに浮かぶのは微笑んで手を差し伸べてくる半兵衛の
姿だ。
「うあー、もうだめ!半兵衛のことばっかりさっきから考えてる」
ベッドにダイブして顔を枕に埋める。そうしなければほっぺたがだらしなく
緩んでにやけて、そのまま溶けてしまいそうだった。
私はキスをしたんだ。半兵衛と。遠くから見ていただけの時には綺麗な色の
唇だなと思って見ていただけだったそれに。思い出してそっと自分の唇に手
を触れてみると、そこは熱を持っていた。
「ファーストキスだ、半兵衛と・・・・」
考えたら生まれて初めてのキスを好きな人としたのだ。私ってなんて幸せ者
なんだろうか。まあ二人思いが合わさって、と言うよりは半兵衛から有無を
言わさず急に襲われた感じだったけれども。それもあんなねちっこい舌を使
うような。ディープ、キスってやつだ。
思い出してもすごかった。
キス自体が初めてだから半兵衛のキスが上手いかなんて私には分からないけ
れど、言葉で表すなら半兵衛のキスはすごい、の一言だと思う。情熱的とい
うか、こんな言い方ははしたないけれど欲望のままに、って感じだった。
あんな紳士な半兵衛が普段からは想像もつかない荒々しさで、むさぼる様な
口付けをする。その半兵衛のキスを知ってるのは私だけ・・・。
うわ、なんかそれってすごく厭らしい。・・・でも正直嬉しいかもしれない
。だって私だけが知る半兵衛の一面ってことだし。って、無理やりキスされ
たのに嫌だとかかけらも思って無い私ってちょっと乙女としてどうなんだろ
うか。いやでも相手は好きな人だし、嬉しかったのは事実だし。
そうだよ、うれしかったんだよ!!半兵衛からのキスが!!!ああああ、思
い出せば思い出すほど幸せすぎる!!!嫌いになる理由なんてどうしてある
んだろう?!無いよ。無い!やっぱり私は半兵衛のことが好きで、大好きだ
!!
「あ、そういえば私半兵衛の唾液、飲んだ・・・」
「ちょっ・・・・!!!明日半兵衛の顔見れないかも・・・!!!!!」
その夜、私は寝るのに相当な体力を使った。
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