花は折りたし梢は高し













つるちゃんが私との約束を覚えていてくれた。
週の終わり、金曜日の帰りのロングが終わるとなんと私の席につるちゃんが
来て言った。
 
 
 
「あの約束、まだ覚えていますでしょうか?」
 
 
 
そう言って小首をかしげて尋ねてくるつるちゃんにめいいっぱい首を縦に振
って頷いたら良かったです、とほわっと笑った。
それがすっごく可愛くて思わずギューっと抱きしめたくなった。
私は本心で誘ったけど、きっとつるちゃんは優しいから私に合わせてくれた
んだろうなと思っていた。だからつるちゃんから誘ってくれるなんて、とそ
の時の私は内心飛び上がりそうになっていた。
という訳で日曜日。
今日はその待ちに待ったつるちゃんとのデートの日だった。
つるちゃんが身につけていたあのエプロンを買った店は少し遠いところにあ
るみたいで、だけど私に似合いそうなのがあるんです、とつるちゃんが言っ
てくれたからなんとしてでもそれを買おうと決めた。そのためなら多少遠く
たって頑張れる!
この熱い思いを最近メアド交換した政宗君にぶつけると、買ったヤツ見せろ
よ、とだけ書かれたメールが帰ってきた。つるちゃんが選んでくれるなら絶
対間違いないと思って、いいよ!と打って携帯を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 





 
「この白いワンピースなんてどうですか?」
 
 
 
つるちゃんにこそ似合うよ!と本心で返しそうになって、慌てて着てみるね
、と言って試着室に逃げ込んだ。危ない危ない。
うっかりしてたらポロリとつるちゃん好きだよ、なんて言葉が出てしまいそ
うだった。そりゃあ今よりもっと仲良くなれたらなあ、何て思ってたりはす
るけども・・・。つるちゃんが勧めてくれた白地のワンピースに着替えて試
着室を出る。
 
 
 
「一枚だと少し透けてしまいますね」
 
「そうだね、少し。・・・ねえねえ、つるちゃん」
 
 
 
自然な感じに言わなきゃ、さも今思いついたかの様に。
実は待ち合わせ場所に来てつるちゃんを待っている間に良い考えが頭に浮か
んだ。実現出来たらなあ、と駄目で元々言ってみる。
 
 
 
「何ですか?」
 
「お揃いで買うのって、いや?」
 
「はい?お揃いですか?」
 
「うん。せっかくつるちゃんと仲良くなれたし、その記念に、なんて」
 
 
 
断られたらどうしようかと緊張する。そりゃあお金の都合とか色々あるだろ
うからそうなったら仕方がないけど、私にとっては密かな告白というか思い
が込められたお願いだったりするから。あと単純につるちゃんと一緒のもの
が欲しいっていうのもあるけど。
 
 
 
「いいですね、それ!ぜひそうしましょう!」
 
「え?いいの?本当に?」
 
「はい。今日の記念にお揃いのものを買う、何だか特別な感じがします!」
 
「特別・・・」
 
「はい、特別です!」
 
 
 
特別。とくべつ。つるちゃんの声が頭にリピートする。
そのニコニコと笑うつるちゃんはさっそく洋服の棚を探り始めていて、どう
せなら色も一緒の方が良いですよね!なんて私に聞いてくる。
うわあ、もうどうしよう。本当に可愛い。
きっとつるちゃんにとっては友達って意味で特別って言ったんだろうけど私
にとってはちょっと違う。でもつるちゃんの言う特別でも全く構わない。
色も一緒が良いな、と言って二人でお揃いの洋服を見つけることにした。
 
 
 
「ねえつるちゃん、今日はありがとうね」
 
 
 
帰り道に私お勧めの店の肉まんを奢ってあげて、二人で並んで帰る際中。
熱い熱いと言いながらもおいしいです、と言ってほお張るつるちゃんが可愛
くてそう口にしたら、私の言葉です!と肉まんを持っていないほうの手を握
り拳にして力説してくれた。
そこまで言ってくれるなら少しはつるちゃんの中で私は友達から親友に近づ
いたと思っていいのだろうかと、嬉しくてにっこり笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 







 
 
「『つるちゃん』ねえ・・・」
 
 
 
翌月曜日の朝、お手洗いから戻ってくると珍しく朝からきちんと政宗君が登
校してきていた。驚き感心はするけど、人の携帯は勝手に見ちゃいけないと
思った。
 
 
 
「政宗君、返して」
 
「Sorry,here you are.」
 
 
 
政宗君の手から携帯をひったくって教科書は持ってきたの?と代わりに尋ね
れば「Of course.」と無駄に良い返事をしてくれた。
だけどそのオフコースは『もちろん持ってきていない』という意味で言った
可能性も有り得るので安心は出来ない。こんな引っ掛け、いかにも政宗君の
考えそうなことだった。
 
 
 
「そんな怖い顔するなよ My sweet. How's your date?」
 
「うん、楽しかったよ。つるちゃんとメアド交換も出来たし」
 
「Ah-ha?良かったじゃねーか、しかもお揃いの服買えたんだろ」
 
「うん、白のワンピ。着るのが楽しみ」
 
 
 
ふふふ、と笑うと政宗君に「しまりのねえ顔」とほっぺたを抓まれた。
痛かったけど、つるちゃんとの仲がこれまでに無く順調に行っている私はこ
んなことで腹を立てたりしない。
政宗君の手を叩いて、放して、と伝えるとその通りにしてくれた。だけどそ
れが気に食わなかったのか、つまんねえ、と政宗君は言って椅子の背にもた
れ掛かかってそのまま目を閉じてしまった。私みたいに恋でもしてみたら?
と言おうとして止める。
 
 
 
「ねえ、政宗君にも今度見せてあげよっか」
 
 
 
私が買ったワンピース、見たいってメールくれたよね。と話しかけても政宗
君は返事をしてくれなかった。もう寝てしまったのかと不思議に思ったけれ
ど、そういうことにしておいた。
見たいって言ったのはそっちなのに、男の子って何考えてるのか良く分から
ない生き物だ。









→石に花咲く