今から君に大事な話をしようと思う。これはいつもと違って命令じゃないから、聞いた後の判断は君自身に委
ねるよ。いいね。ああ、心配は要らない。君がお世辞にも賢くないことくらい、僕はとっくに分かっている。
今から僕が口にすることの全てを君が理解できるなんて最初から期待していない。だから君のそのお粗末な頭
にも分かり易いように簡潔に、余計なことは省いて重要なことだけを言うことにしてあるから。だから安心し
ていい。ここまでが僕の譲歩。ここからは君へ求める条件。いつもみたいに頭を花畑でいっぱいにして、甘味
の事ばかり考えて後で聞き返しにくるなんて事の無い様に。前置きが長くなったね、それじゃあ話すけど、僕
は此処を出ようと思っているんだ。 

「嘘」

何かな、その目は。言っておくけど嘘じゃないよ。第一こんな事で嘘をついても僕には何の得も無い。
 
「嘘」

何がだい?君は僕が言った事を聞いていたかな?それともそれは返事の代わりだとでも言うのかい。ああ、君
との会話は本当に疲れるよ。それとも何かな。その言葉の裏には何か汲み取って欲しい意図でもあるというこ
となのかい?君にそんな知恵を要するやり取りが出来るようには思えないけれど。
 
「それも。嘘」
 
君はそれ以外言葉を知らないのかい。それとも僕の怒りを買うのが目的なのかな。もういいから黙って口を閉
じて僕の話を最後まで聞いてくれ。 

「嘘」
 
いい加減にするんだ。僕にも堪忍袋の緒があるんだよ。どうして君はそういつもいつも・・・・・。
はあ。駄目だ。いちいち君の言うこ とに返していたらきりが無い。もう勝手に話すからしっかり聞くだけは
してくれ。頼むよ。・・・ようやく秀吉が天下を統一して僕の夢は叶った。それは君も知っているだろう。す
べてを成し終えた今、僕にはもう心残りは無い。秀吉は城に留まるよう薦めてくれたけど、僕は決めたんだ。
僕は城を出る。 

「嘘」
 
嘘じゃない。だから、僕と一緒にこの城を出よう。

「嘘」 

・・・・・、残念だよ。どうやら君と僕は分かり合えないらしい。
だけど悪いのは全部嘘嘘と馬鹿の一つ覚えのようにそれだけしか言わない君の方だ。君を連れて城を出るつも
りでいたけれど、それよりも先に此処で朽ち果ててもらうことにするよ。僕を嘘つきのように言った罪は重
い。あの世でしっかりと反省してくれ。

「・・・・・・嘘」
「?」
「うそ。半兵衛が私と城を出たいなんて嘘。そんなのは私が一番使える身近な部下だからってだけ。それに半
兵衛は平気で嘘をつく。現に半兵衛は秀吉様に病気のこと黙ってる。私が気づかなかったら部下にだって黙っ
てるつもりだった。半兵衛は嘘ついて敵も味方も皆騙す。通り名は知らぬ顔の半兵衛。だから半兵衛は私も捨
てる。平気で捨てる。捨てないっていう証拠もない。第一天下統一したからってもう後のことはどうでもいい
みたいな、簡単に城を去ろうって言い出すところとか。半兵衛のそういうところが嫌い」
 
・・・・・・今の君は、出掛ける約束を守ってくれなかったと駄々を捏ねる子供みたいだね。ああ、そう睨ま
ないでくれ。馬鹿にしてるんじゃない。少し驚いただけだよ。天才軍師と言われる僕に此処まで言えるのは君
くらいなものだろうしね。やれやれ、仕方の無い子だ。全く。 まあでも総合すると君は僕と一緒に城を出る
のが嫌では無いんだね。僕は君が好きで愛している。だから余生を君と過ごしたいと考えている。共に来て欲
しい。これでいいかい? 

「それも全部、嘘」 
「・・・死にたいのかな?」 
「殺せないくせに。先に死ぬのは半兵衛でしょ」

明日世界が滅ぶとして、最後まで君のそばにいるという嘘。
 


エイプリルフール。