どうにかしてみせると決意したのが半年前。どうにかしようと決めたのが三か月前。どうにか出来ないのかと
模索したのが二か月前。どうすればいいのかと思案したのが一月前。今月、主題を逸れて男女の隔たりについ
てを考える羽目となっていた。なにゆえここまで目的を逸れたのか。半年前の発端となった出来事を思い起こ
してみる。半兵衛が血を吐いた。そこで私は彼が病気であったことに初めて気づく。口元に赤くこすれた跡が
あるのを見て、「女装?」と聞いた私を初め半兵衛はにらんだ。次に嘲笑い、最後に真面目な瞳で秀吉にだけ
は黙っているようにと口封じをされる。ここで重要なのが私と半兵衛が夫婦であるにも関わらず(それらしい
ことは一切した事がないけれど)、半兵衛が私ではなく秀吉を優先したことである。秀吉には心配させたくな
いんだとか言ってしまう癖に。へえ、私にはいいんですか。と思ったりもしたわけだが、妻だからこそ秘密に
する必要はないと甘えたんだろう。・・・と思う事にした。繰り返すようで悪いが、本当に妻らしいことはこ
れまで一切してあげた試しがないので、せめてどうにかならないものかと夫の病気を治そうとあれこれ奮闘し
てみることにしたのだが、「ねえやっぱり秀吉に話してみよう。執務も減らして良い薬師をつけて養生しない
ことには死を早めるだけだよ」「駄目だ。秀吉には絶対に言うな」の一点張りである。一体どれだけ秀吉命な
んだと厭きれてしまう。この辺が今月の主題が逸れた理由にある。私達が人間ではなく畜生だった頃から肉体
は勿論のこと、性差によって物の考え方見方が違っていたのは分かるのだが、やはりどうしても、女の私から
すると何故秀吉にそこまでむきになって隠そうとするのか理解が出来ないのだった。ここまで頑なだと、弱み
でも握られているのかと疑ってしまう。頭がおかしいんじゃないだろうか、なんて。
「、どこにいるんだ」
「いるいる。ここにいるって」
おとつい、とうとう半兵衛は倒れた。あーあ、言わんこっちゃない。馬鹿め、これだから。寝床より私を呼ぶ
声が以前と違い生気がなく朧であるのを耳にして、酷い私はそんなことを内心で思う。普段ならば絶対にない
のに、私を求め布団から伸ばされた腕が宙を彷徨う。目を開ければ私の居場所なんてすぐ分かるのに、そうし
ないという事はそれも出来ない程に辛いのだろう。仕方がないので手を取ってあげる。握りしめると半兵衛の
汗と熱を移された。溜め息が零れる。結局のところ、私は妻として半兵衛に尽くすよりも戦に立ち続ける女で
あり続けてしまった。半兵衛の病気に気づけなかった。少しの罪悪感と自分への嫌悪。何も出来ずに終わるの
だろうか。巷で噂の変てこなザビー教とやらにでも聞けば、彼の病気を治す手立てを授かることが出来ただろ
うか。普段ならば絶対に起こさぬ考え、私の頭も大分お疲れの様である。半兵衛が助かるのであれば、今なら
世界中の神という神に額ずいて回るのに。何分半兵衛の時間は限られている。それすなわち私が彼のもとを離
れられないという事だった。
「、すまない。側にいてくれ」
弱々しい頼みに、私は笑った。
「だめこれ」
あなたらしくもない。
泣き笑い
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