うまい棒パーリィーだ!宗麟の家でクリスマスパーリィーをやる事にした。なったのではなく、したなので、
私が勝手にそう決めただけの事だ。何故唐突にそんな傍迷惑な案を思いついたかというと、今が冬休みで学校
がお休みだからだった。つまり歳が明けて次の始業式の日を迎えるまでは宗麟には会えないのである。それは
宗麟に恋をする私としては凄く寂しい事だった。もはや苦行に等しい。なので何とかして会えないだろうかと
考えたところ、冬には素敵なイベントが盛りだくさんあることに気がついた。それにかこつけて家へ押しかけ
ればいいのだ。それでさっそく、私は恋人達が一番はしゃぐ日であるクリスマスを理由に、手土産のうまい棒
を持って宗麟の家へ押しかけた。 
 
「というわけで宗麟、クリスマスパーリィーをやろう!」
「頭が沸いてるんじゃないですか」  
 
にべもない。インターホンを押して出てきた宗麟は、私の声を聞くや否や一刀両断した。さすが宗麟。ザビー
様以外には辛辣で容赦がない。私はそんな宗麟の訳も無く態度のでかいところも大好きだった。だけどこのま
ま追い返されるわけには行かない。  

「お菓子もって来たよ!」
「・・・!」
   
宗麟の顔が途端に輝いた。分かりやすい。宗麟がとてもお菓子が好きという事を知っていた私の作戦勝ちであ
る。此処に来る前に買って来たスーパーの袋からお菓子を取り出して、これ見よがしに見せつける。  
 
「うまい棒でしょ、あとうまい棒とうまい棒かな。それとうまい棒!」
「うまい棒しか買えない貧乏人は帰りなさい!」
「あ!忘れてた。あとブッシュ・ド・ノエルがあった!」
「遠方より遥々ご苦労でしたね。入りなさい」 

わあ単純。宗麟の奥に控えていた宗茂さんが寄ってきた。こんにちはお久しぶりです。今日も渋くて素敵です
ね。と言って挨拶をする。彼もはい、お久しぶりですと言って頭を下げてくれた。宗茂さんは礼儀正しいで
す。ケーキを渡して切り分けるよう宗茂さんに頼むと、私は宗麟の後に続いてリビングへと入った。  
 
「あのね、此処に来る前伊達先輩に会ったよ!」
「そうですか」
「うん、凄いカッコよかった!話したことは無いけど、やっぱりカリスマ性があるから目に付くね」
「まあザビー様には及びませんけどね」
「宗麟ならそう言うと思った!」  
 
コートを脱ぎながら此処に来るまでの事を話すと、宗麟は興味が無いという様な相槌をして一人席についてし
まった。私の話よりもケーキが楽しみで仕方が無いらしい。甘いものを食べている時だけはいつも素直に頬を
緩ませるのだから、可愛いったらない。私の話なんか聞いてくれなくてもその顔を見れたら十分だと思えるの
だ。宗麟がザビー様に狂っているように私も相当な宗麟バカだった。そんな事を考えながら宗麟の向かいの席
に座ると、丁度切り分けたケーキを盆に載せた宗茂さんが部屋に入って来た。お仕事が速いです。
  
「あ、上に乗ってるチョコのプレートは宗麟が食べていいからね」
「当然です」
「あとうまい棒も好きに食べていいよー」
  
並べられた三つのお皿に一番速く手を伸ばしたのは言わずもがな宗麟だ。子供用アルコールであろうお酒を宗
麟と私のコップに注いだ宗茂さんは、私が机に置いた大量のうまい棒に気付くと眉を寄せた。 
 
「殿。何故またこれほど大量のうまい棒を・・・?」
「真田先輩が、うまい棒を貰ったら嬉しいってアドバイスをくれたんです」
「左様ですか・・・(だからといってこれは如何なものか・・・)」
「真田さんはいい人ですよー」 
 
大量のうまい棒を目にして未だ納得がいかないように首をかしげた宗茂さんだったけれども、では。と仕切り
なおすと咳を一つした。乾杯、と頭上へと高く掲げてグラスを付き合わせる。三人の威勢のいい声が重なった
と同時、それは起きた。勢いが良過ぎただけでは説明が出来ない程の量が私に降りかかってきたのである。避
ける間もなく濡れる。ばしゃり。  
 
「おや、失礼しました」
 
涼しげな、品のいい声が部屋に響いた。宗麟のほうに目線を向けても前髪から垂れてくる雫で視界を邪魔され
る。向かいに座ったのが間違いだったのか、それにしても何の恨みだ。宗茂さんなんて呆然としたまま固まっ
ていた。手にしたうまい棒の一つが粉に帰る音と共に、私はそれを気にする事も垂れてくる雫を拭うこともせ
ずに宗麟を睨んだ。  
 
「宗麟、わざと!?」
「人の家に邪魔しておきながら酷い口の利きようですね。嫌なら帰っても構わないのですよ?」
「なっ!!最悪!!」  
 
宗麟に見て欲しいからと頑張ってセットしてきた髪の毛もお気に入りの服も台無しである。というのに悪びれ
る様子の欠片も無い宗麟に怒鳴りたい衝動に駆られたが、それよりも好きな人に邪険にされて泣きたい気持ち
の方が勝った。来て早々に泣くなんて今日はどういうクリスマスだ。テーブルの下で握り拳を作って涙を堪え
ていると、宗茂さんが私の頭にタオルを載せてくれた。  
 
「すぐに替えの服を持って来ますので、一先ずこちらへ」 
  
頭にタオルがあったおかげで零れた涙を宗麟に見られず済んだ。助かった、宗茂さん様様である。宗麟が私の
泣いた顔を見たらきっと意地悪く笑うんだろう。容易に想像がついた。悪魔め。ああ、でもどうしてこんな事
をしたんだろうか。今まで辛辣な言葉を浴びせる事はあってもこんな、ワインを頭に掛けるなんて程ではなか
ったのに。そこまで宗麟に嫌われていたんだろうか、なんて思考がぐるぐると負のスパイラルに嵌まってい
く。席を立って宗茂さんに案内された部屋に入ると、そこはお風呂場だった。着替えなんて持ってきてないと
眉を寄せて宗茂さんを見ると、探してまいりますと言ってドアを一方的に閉められた。一人取り残されてしま
った私は仕方なく風呂に入ることになる。ああ、もう帰りたい。だけど風呂を上がった私にと用意されていた
のは男物の代えの服で、とてもじゃないがこれを着て家まで帰ることは出来そうに無かった。サイズから見て
多分宗麟のだったけれど、今は素直に喜べない。というか破り捨てたい衝動に駆られた。  
 
「・・・あれ、宗茂さんは?」
「宗茂ならば、用事で出させましたよ」
「あ、そう」  
 
リビングに戻った私を待っていたのは先程と同じ席に座って本を読んでいる宗麟だった。ケーキは片付けられ
ることなくテーブルの上に残っている。ワインも。これがわざと残されていたのなら何て悪趣味なのかと思っ
たけれど、宗麟の場合はそういうことに単に頓着しないだけなのだろうと勘繰るのを止めた。だけど先程の出
来事が嫌でも思い出されたので眉を顰めて机を見ていると、あることに気がついた。宗麟が本を閉じる。  
 
「今後、他の男の事は口にしないことです」
   
うまい棒が減っている。机の上に散乱するうまい棒の数を数えてそう結論を出したのと同時、宗麟が言ったの
で、うっかり聞き逃してしまった。何を言われたのか分からずぽかんとしていると、その事に気がついたらし
い宗麟がむっとした顔をして私を見た。 
  
「本当に、貴方ほど僕を苛立たせる人間もいませんね」
「いや、意味分かんない」
   
苛立ってるの私なんだけど。来た時のテンションもどこへやら、じと目で宗麟を見る。急に押しかけた自分が
悪いのは分かっている。だけどケーキを受け取る事でそれを了承したことにはなっているはずだ。ここまでさ
れるいわれは無い。私はただ純粋に、好きな人とクリスマスを楽しみたかっただけ。机の上のケーキと子供用
ワインが目に入る。何だかたまらなくなってきて、もう帰ろうかという気持ちになってきた。それを引き止め
たのは宗麟だった。 
 
「飲んでいきなさい。せっかく開けたのですから」 
 
先程とは一転した言葉だった。人の頭にワインを掛けておいてそのワインを今更飲めとはどういう心があって
言うのかと思ったけれども、もう家に帰ると決めていたので最後に一杯ならクリスマスの記念にはなるだろう
かと思い、差し出されたグラスを大人しく受け取った。口に含むと炭酸の味がして口の中が甘くなる。 
 
「あれ・・・?」  

なんだろうか、体がぽかぽかとする。風呂上りのせいだろうかと一瞬思ったけれどもそれとはまた少し違う気
がした。それから動悸が速くなってきたような。覚えた違和感の原因を見る。手にしたグラスの中には何もな
い。液体しかない。これがワインなのだとしても何かが変だった。「」宗麟の声がする。
何が起こっているのか、痺れてきた体を何とか動かして宗麟を振り返った。
  
「引っかかりましたね」
 
それは正しく、いたずらが成功した子供の笑みだった。何を言われているのか分からず動揺した拍子に、私の
手からはワイングラスが落ちた。このワインに何か仕掛けが、いや、それ以前に初めから全てが仕組まれてい
たかのような。家に招きいれた時からなのかそれとも。唯一つ、愚鈍な私にも分かった事は宗茂さんが用事に
使わされたのではなく宗麟に追い出されたのだということだった。理解すれば後は早い。歩み寄って来た宗麟
が笑って、私の頬に手をやった。ケーキはおいしかったかを尋ねれば、宗麟はにやりと笑った。

「いただくとします」


よくある話