地球爆発しろ。爆発しないんだったらせめて砕け散るかさもなくば砕け散って欲しい。有り得ない。なんで今
時教室に冷房がついていないんだろう。うちの学校はどうなっているんだ。生徒の親が授業中に子供が苦しん
でいるとか言って苦情を言いに来ないのだろうか。モンスターペアレントと呼ばれる親が今、学校に乗り込ん
で来て冷房を付けろと喚いたのなら私は全力で加勢するというのに。このご時世にあって当たり前の冷房が無
いということは、それすなわち学校側が親の意見を無視していると言う事だ。なんてこった。この学校は校長
と教育委員会の専制君主の魔の手に落ちてしまっているのだ!
我が校の学校長は天下を制しているとまで言われるあの織田信長先生だ。生徒には鬼畜、生徒の親にも鬼畜、
身内にも鬼畜。非道なまでの傍若無人ぶりだ。しかし噂によるとそんな校長に対して暑さが大の苦手な明智先
生は謀反を企てているそうな。もしそうだったら今回ばかりはあの先生を応援しようと思う。頑張って明智!
だけどあれだなー。織田先生が失脚してもその後はどうせ明智先生じゃなくて豊臣先生だと思うんだ。政権交
代しても日本が変わらないように学校も変わらない。生徒が強ければ暑さなど関係ないとか言って心頭滅却を
唱えてる豊臣先生だ。結局織田先生と似たような事しか言ってないし、あといつも側にいる竹中先生が恐怖政
治しかしないだろう。しかしまあそれはともかくとして、とにかく誰かクーラーを付けて下さい。頼むから付
けてくれ。さもなくば付けてくれよ。うちの学校はプールの授業も無いし授業中は扇ぐの禁止だし、そのくせ
無駄に熱血教師が多いんだから見てて暑いったらない。もうやってられない。というわけでこっそり4限目の
授業を抜け出して風に当たろうと屋上に来てしまった私です。よかったね、私。松永先生と仲がよくて。「先
生屋上の鍵貸してー。涼みたい」「卿はそのまま戻って来なくても構わんよ」で貸して貰えちゃった。松永先
生ってば本当に優しいです。なんで皆あの人が怖いって言うんだろうね。もっとよく話をするべきだよ!とま
あ色々言いつつ屋上に来てみたのはいいけど、何だろうかこの暑さは。教室にいた時とあまり変わらないんだ
けど。何これ。教室との違いなんてせいぜい外だから温い風が吹いてるってぐらい?でも日差しがある分屋上
の方が暑いかもしれないっていうか、完全に来るだけ損した!!いやだもう死にたい!!ってあれ?なんかあ
そこにペットボトルが見えるんですけど。暑さで見える幻かな?でも何回目を擦ってもペットボトルがある。
・・・誰かいるのかな?いや、いないな。だってさっき私が鍵開けて屋上に入って来たんだからいるわけがな
い。じゃあ誰かの置忘れかもしれない。こんな所にゴミを放置して環境に悪いなあ、捨てておいてあげよう。
・・・・ってこれ良く見たら買ったばっかりのやつだ!!冷たい!えーうそ!いいなー。いいなー。ていうか
置き忘れて帰っちゃったんなら勿体無いから飲んじゃってもいいよね?少しならいいよね?いいよいいよ飲ん
じゃえ。いただきまーす!ごくん。ガチャリ。 
 
「お、開いてた!」 
  
がふっ!!げほげほ!!え?誰か入ってきたんですけど?というか何でやましい事していた訳でも無いのに私
は咄嗟に貯水タンクに隠れてしまったのだろうか。入ってきたのは声の感じからして多分先輩だろうけど、こ
れじゃ出て行きづらい!早く帰ってください先輩!サボりは良くないと思います!!と陰に隠れつつ私は隙を
見て水分補給。ああ、生き返る。  
 
「飲み物を忘れたなんて三成、お前らしくないな」 
 
・・・・・・・・え。あれ?何。飲み忘れ?しかも今、あの先輩は何て仰った?飲み物忘れたなんてお前らし
くないな三成?でしたか?三成ってあの石田先輩ですか?石田先輩の側にいるってことはなんだ。今喋ったの
は徳川先輩ってこと?何だそれは。石田先輩と言えば豊臣先生直々に師事する学園切っての武闘派の生徒だ。
この間伊達先生に楯突いたと聞いたんだけども、なんだ。私は今、ひょっとしなくてもそんな人の置き忘れの
飲み物を口にしているわけですか?なんて死亡フラグですか?
   
「飲み物等どうでもいい。目的はこっちだ」 
  
ペットボトルを持っていた手の震えが止まった。何だ、よかった。別に戻ってきた目的があったのか。それ程
飲み物に固執していたわけじゃなかったと知って安心する。それなら見つかってぶたれる心配も無いだろう。
さあ先輩達よ、目的のものが見つかったのならそれを持ってとっとと此処を出て行ってくれ。  
 
「って三成、おめえそれはいいとして飲み物は何処にあるんだ?」 
「・・・無くなっている」 
「なに!?」  
 
ですよねー!気がつきますよねー!そりゃあったものが消えていたら驚いて周りを探したりなんかしちゃいま
すよねー・・・・探す。さがす。捜す。え?もしかしなくてもこっち来る?ちょっと待って。本当に足音が近
づいてきてない?嘘でしょ?もう私の居場所がばれたの?ばれるの?怒られるの・・・・!!??手に持った
ペットボトルが私の握力に押されて音を立てて凹んだ瞬間、貯水タンクの陰の輪郭線が膨らんだ。あ、と思っ
て咄嗟に振り返ると、私を見下ろしている鋭い瞳と目があってしまった。 
 
「おーい三成ー!あったかー?」 
「いや、無い」 
  
石田先輩はそう言うと踵を返した。徳川先輩の元へ戻っていったのだろう。 
  
「炭酸だったからな。あの程度のもの、くれてやる」 
「三成、炭酸嫌いだったか?」 
「金吾の馬鹿が間違えて買ってきた」 
「はは、成程な」 
 
確かに今目が合った。先輩は私が手にしていたマッチに目線をやっていた。それなのにどうして、私は無視さ
れたんだろうか。大体くれてやるなんて目をしていなかったぞ。偽善も大概にしてくださいよ先輩。それとも
私が哀れ過ぎて叱る事もできなかったのだろうか。ぐるぐると考えているうちに話し声は遠ざかっていき、屋
上のドアが閉まる音がして先輩達が出て行った。取り残された私は貯水タンクの影にしゃがみ込んだまま、動
けないでいる。あれほど暑かったのに、汗一つかかずに私を見下ろしてきた石田先輩のせいで背筋が凍えてし
まっていた。いや、でも死亡フラグを回避できただけ今日の私はついてたはずだった。石田先輩を前にしてこ
の程度で済んだのだから。先輩の気が変わって後になって「やっぱ殺しに行こう!」なんて事にならないうち
に、今日は寄り道もせずに真っ直ぐ家に帰ろう。そうだ、そうしよう。 

「」 

はい、そして案の定放課後、校門前にて待ち伏せを喰らいました。校門の支柱の前で通る生徒の一人一人を睨
みつけている先輩がいると聞いて今日は学校に泊まろうと真剣に悩んだ私だったけれど、友達に紛れて一緒に
下校すればいいんじゃん!と考えついた。で、かすがちゃんと市やんに協力してもらって間に挟まれる形で校
門を出ようとしたら、目敏くも私に気づいた石田先輩が二人に「借りる」と言って私の腕を掴んで無理矢理校
舎裏(ここが味噌)に連れてきた。呆気なく私の策は見破られてしまったのである。つまり今からリンチタイム
です。ごちそうさま!!嘘!!こんなの無理に決まってる!!!  
 
「先輩、私お金なら返しますので!返しますから殺さないで下さい!!本当に!!私まだドラマの再放送も見
て無くて今死ぬわけにはいかないんです!マッチでもハッパでも買ってきますから家に返してください!」
  
いや、葉っぱは洒落にならないだろという突込みが聞こえた気がするが、そんなのは無視だ。私は今そんな事
に構っていられる状態では無い。一刻も早く家に帰ってドラマの再放送を見なければならない。そのためなら
何だってやる。リンチされないで済むというのなら石田先輩のぱしりくらい喜んでやってやるともさ!意気込
んで鋭い目を見据えると、先輩の唇がほんのわずかばかり薄く延びた気がしたけれど、気のせいだろう。先輩
が口を開く。  
 
「ならば命じる」 
「はい!何でしょう」 
「。私の女になれ」 
「はい!・・・・・・・・え?」  
 
何だと?フリーズしてぽかんとしていると、先輩が私の掴んでいた腕を引っ張って自分の胸に私を抱き寄せ
た。「決まりだな」そう言って薄く笑みの形に伸ばされた唇を見て先程、私が錯覚だと思っていた笑みが気の
せいではなかったのだと気づく。このくそ暑い中抱き合うなんて!息苦しさに押し付けられていた先輩の胸か
ら顔を上げると、その隙を見て石田先輩は私に噛み付くようなキスをしてきた。上の階からやったな、三成!
と言う声がする。キスされたまま先輩の後を見ると、校舎の二階から先程ハッパは洒落にならないと突っ込み
を入れていたのと同じ声をした彼、徳川先輩がグーサイを作ってこちらを見ていた。その横には鍋を背に担い
だ男子の姿。そこで私はようやく悟る。全てが彼らの仕組んでいた罠だったのだと!
 


マッチとmatchについて本気出して考えてみた