朝目がさめると隣のベッドに夫の三成がいなかった。
あれ？昨日一緒に寝たはず。そう思って部屋をぐるりと見回してみてもやっぱ
り三成の姿は見当たらない。三成は働いていて今日も仕事があるはずだ。とは
いえ私が起こすまで三成は大体いつも寝ているから本当にこんなことは珍しい
結婚する前、同棲していたころのようだと、思わず笑いがこぼれる。
あの頃は三成のほうが早く起きていた。目がさめるとすでにきちんと着替え終
わった三成がいて、私に起きるよう声をかけるのだ。その几帳面さは初めて三
成に会ったときに抱いた印象そのもので、彼らしいと思ったのを覚えている。
そんな三成も結婚してからは気が緩んだのか信頼してくれているのか私が起こ
すまで寝ているようになった。付き合っていた頃からは考えられない気の緩み
っぷりだ。寝ていても起きているときとあまり変わらない顔をかわいいなと思
う自分は相当三成にやられているんだと思う。さて、思い出に浸るのはこれく
らいにして早いところ朝食を作らないと。三成がリビングで待っているに違い
ない。それでなくても三成はただでさえ体が細いんだから私がしっかりご飯を
作って食べるように言わなければ三成は平気で断食するだろう。
これ以上痩せたら見れなくなる、それは妻の名にかけて阻止しなければならな
いと思い、着替えようとベッドを出ると丁度寝室のドアが開いて三成が入って
きた。手にコップを二つ持った三成は予想通り着替えてしまっている。
 


「おはよう、三成。今日は起きるの早いね」
 
「ああ、今日は仕事は休みだ」
 
「え！？そうなの？私いつもどおりに起きようとしてたよ。
　言ってくれれば良かったのに」
 
「たまにはゆっくり寝てろ」
 
「でも三成いつも働いて疲れてるのに・・・」
 

まじめな三成は会社の上司である豊臣さんの下で身を尽くして仕事をしている。
残業や休日出勤も結構頻繁にある。私は三成の仕事に口を出すつもりはないし、
かまってくれなくて寂しいだとかわがままも言わないと決めていた。
だけど三成は自分を省みないところがあるからしっかり休んでほしい、という
のが私の本音だ。
 

「お腹すいたでしょ？朝ごはん作るよ」
 
「いい」
 
「だめ。仕事で疲れてるのにその上何も食べないなんて体を壊すよ」
 

私がベッドから立ち上がろうとすると三成が私の肩をつかんでベッドに無理や
り鎮めて行かせないように邪魔をしてきた。一瞬の早業に私は抗議の声をあげ
ることもできずに三成に組み敷かれた。
 

「ちょっと、三成。どうしたの？」
 
「はまだ寝ていろ」
 
「・・・寝てもいいけど三成はどうするの。
　三成が起きるなら私も起きなきゃだめだよ。ていうか肩痛いよ」
 
「ならば私も寝る」
 
「・・・・・・コーヒー冷めるよ」
 
「また淹れればいい」
 

なんだかんだで優しい三成は私と一緒に寝ることにしたらしい。
私の横に体を倒した三成はそのまま私を抱きしめた格好で目を閉じた。
この細い体のどこにこんな力があるんだってくらい強く抱きこまれて息が苦し
くなる。三成は力が強い。実際は私が心配するほど三成はやわじゃないのだと
こういうときに実感する。だけど三成の背中に腕を回すとどうしても不安にな
るのだ。
 

「三成、やせ過ぎて死なないでね」
 
「うるさい、早く寝ろ」
 
「怒らなくたっていいじゃんか・・・」
 

一度決めたらてこでも意志を曲げない三成はその通りにならないとすぐに頭に
きてしまう厄介な優しさの持ち主だということを知っているのは私と彼の周り
の数人だけだろう。そのことに優越感を感じる私は心のどこかで三成が細いま
までいてほしいなんて罰当たりなことを思っている。（だって三成が細いのは
私を優先している証拠に思えて）このままじゃ三成を殺すのは私になってしま
うんじゃないだろうか、きっと三成は私がご飯を作らなくなったとしても文句
を言わないだろう。三成へのこの歪んだ思いをかき消そうと嘘つきな私は三成
の背中に回している腕に力を込めた。そしたら三成の私を抱く力も強まった。
 

ああ、そして今日も彼は自分を省みないのだった。
 
 



 
私の旦那様！
 



大丈夫、三成が死んでもちゃんと後を追うから。