三成の色の白さはヤバイと、彼の父が言った。私と三成の関係は幼馴染と言うやつだ。しかしながら 兄弟と言っても良いほどには一緒にいるので、お互いの家のことなど筒抜け状態。それで先日三成の 両親に夕飯にお呼ばれされたから、部活で帰宅がまだな彼を除いて彼の両親と3人で話をしていた。 その際に三成の父親が私の顔色が良いのを褒めて、それに比べて三成はなあ、としみじみ言ったのだ った。 「だから海に行こう」 「今は冬だ。馬鹿者」 間髪いれずに罵声をつけて返すのは三成の十八番だ。付き合いが長いから自分は慣れているが、彼を 良く知らない人間の大勢はそれに傷つくに違いなかった。 「おじさんマジで心配してたよ。哀愁漂ってたから親孝行してあげなよ」 「知るか」 三成は自分の事を粗雑にしがちで体が細いのだって食べ方が足りないせいだ。部活に勉強にと、それ どころじゃないにしても確かに此処最近の顔色の悪さは今までで一番だろう。生ける屍を目指してい るのだろうかと思ってしまう。第一アレだ。 「私、顔色悪い男は嫌だな」 見ていてはらはらする。とは言わずにぼそりとつぶやくとシャーペンが紙を引っかく音が止まった。 「行くか、海」 顔を上げた三成がボソリと言った言葉に私はほくそえんで言った。 「今は冬だよ、三成」
手玉に取れる人 「チョコを作ってみました、三成様」 「くだらない」 「甘いものはお嫌いでしたっけ」 「食えないことはない」 「では受け取ってくださいますか」 「三倍返しなどとふざけたことを言わないだろうな」 「滅相もない!」 「毒をもったりなど・・・」 「まさか!」 「食べなくてもいいですから、せめて受け取るだけでも」 「・・・よこせ」 その場でラッピングをバリバリ破いて豪快にチョコをかじる三成さまに言いたいことは山ほどあった けれどまあ受け取ってくれただけ良しとします。ハッピーバレンタイン!!
らしくないのね 「やばいね。これは」 「何のことだ」 「この雑誌に載ってるバンドのボーカルの人がマジでかっこいい件」 「・・・・・」 眉間を歪ませた三成は私が言った言葉にどう反応すればいいのか分からないらしい。 「あ、安心して三成。私は三成が一番だから」 「そんなことは聞いていない」 「あれ?こういうのって普通やきもち妬くものだって聞いたよ?」 「知るか」 「・・・じゃあ三成、私今度この人の握手会イベント行ってもいい?」 「許さない」 ほらねー。本当は独占欲強いくせに。
日々 あれ、隣の席の人の名前なんだっけ。まずい、完璧にど忘れした。確か石・・・何とか君だ。 そうそう、そんな硬そうな名前をしていた気がする。石・・・いし・・・・。ああ、駄目だ思い出せない。 どうしよう、先生にお隣の人と組んで英語で挨拶をしなさいって指示されてるのに。何でよりによってこん な時に相手の名前を呼ばなきゃいけないんだろう。もう英語が大っ嫌いになりそうだ。先生の机を向い合わ せてーと言う声がする。 その指示に従ってお隣さんと机をくっつけると、拍子に彼と目が合った。席が隣 になってからまだ一度も口を利いたことが無い。それどころかちゃんと顔を見たことも無かったので、思い のほか鋭利な髪型と目つきが目に付いて、怖そうな人という印象を受けた。私が「名前なんだっけ」と聞こ うものなら「ああ!?」と言って刺してきそうだ。何かこの人なら本当にありえそう。どうしよう、何て言 ってこの場を切り抜けよう。「名前何だっけ?」って軽く言った方がいいのだろうか。それとも「ごめんね 忘れちゃった。名前教えてくれる?」と申し訳なさそうに言った方が誠意があっていいのか。多分、目の前 の彼になら後者のほうがいい気がした。うん、そうしよう。「あの」「なんだ」勇気を持って声を掛ける と、低い返事が返ってきた。本人は全く意識していないのかもしれないけど、不機嫌で怒っているように聞 こえる。やっぱりこの石・・・なんたら君は怖い人なのかもしれない。 「ごめんね、名前を聞いてもいいかな?忘れちゃって」 「・・・・・・石田三成だ」 「あ、うん。ありがとう、石田君」 大分不機嫌そうな声と共に返されたけれど、思っていたよりも怖い人ではなかった。ちゃんと名前を言って くれたし、分からない英単語の読みも親切に教えてくれた。まあ多分私が黙り込んでいたのがムカついたか らだと思うけれど。そういえば、お隣のこの石田君はよく大谷君と黒田君と一緒にいた。黒田君は体育の時 間に校庭に掘られてた穴に落ちたりと、見ていて面白い人だ。クラスでも笑いの的になっている。大谷君は 怖いし悪だけど根は優しいい人ってイメージがある。この間のクラス対抗の球技大会では凄く頼もしかった し。あの時の大谷君は神掛かっていた。そんなグループとつるんでるってことは、もしかしたら石田君も面 白い人なのかもしれない。ちょっと仲良くなって見たい気がしてきた。  「あのさ、石田君 「まだ何かあるのか」 「や、英語はもういいんだけど。これから石田君の事三成君って呼んでもいい?」 「断る」 「え、だめかな」 首を傾げると、石田君は外道畜生を見るような目で私を見た。あんまりだと思ったけれど、こういうところ はあの二人と良く似ているので気にしないことにした。三人揃って無愛想なのはいけないことだと思う。 あ、黒田君はまだ感じがいいほうか。 「馴れ馴れしくするな」 「なんか三成君って狼少年だね」 「貴様ッ・・・・」 「自分で思わない?」 「思わんッ!!」 似てるよ。そういう喚き散らして人に噛み付くところとか、なんて言ったら三成君は額に青筋を浮かべて私 を睨んできた。今にも掴みかかって来そうである。挑発しすぎただろうか。 「貴様、私を馬鹿にしているのか!!」 「怒らないで、ただ興味があるから仲良くしたいだけなんだよ」 私の家の近所にこんな感じの犬がいた。三成君を見ているとペスを思い出すようだった。髪の毛の色素が薄 くて白に近いところもそっくりだ。あと人を見たら吼えてくるところとか。病気にかかって死んでしまった けど、今頃天国で元気にやっているのだろうか。ペスの頭を撫でる時のような気持ちで三成君に微笑むと、 彼の眉間に寄せられていた皺はなくなり、代わりに頬に赤みがさしていったのだった。  「顔、赤いよ?」  「うるさいッ!!誰のせいだと思っている!!」
犬にすら負ける恋 何せこの様な風貌でいますから。ええ、ええ、多くの人は私に言います。「この化け物」と。私も好きで この様なこれに生まれてきたのではないのですが、ともあれこうも率直に言われるとさすがに人の心が痛 むというわけで。小さい頃はともかくこれで苦労したものです。今となってはこれでご飯が食べられるわ けですがね。ええ、それはもう。子供の頃は苦労をしましたとも。例えば家の外へと一歩出てみたとしま しょう。するとたちまちその辺を歩いていた人が何処へともなく捌けていくのです。まあ私のこの姿を実 際に目にすれば気持ちは分からないでも在りませんよ。しかしやはり子供とはいえ、無い女心が酷く傷付 いたものでした。一歩外へ出ただけでこの有様ですからね、田植えになんてとてもとても。行けやしませ んよ。家の外へ出ることすらも、親は望みませんでしたからね。さも、いない子として見られ扱われたの でございます。こればかりは身分以前の問題でした。貴方のような刀を振るえるものには分からない世界 でしょうがね。ええ、ええ、それでよいのですよ。ともかくそれで、私はある晩に家を出ることにしたの です。実はそれまでにも村のものや家族、果ては親戚にまで煙たがられ虐げられ散々な目にあっておりま したから、我慢の限界というよりも身の危険を感じて飛び出したのでございます。そして夜通し歩き続け て二日。とある城下の町へと入ったのでございました。するとどうでしょう。私を奇異に見る視線はそれ まで同様多くあれど、いくらかに理解のある目が向けられるのです。生涯一番の驚きでしたよ。 聞けばこの町には見世物小屋があるらしいじゃないですか。何たる好機、私の生きる場所はそこに置いて 他に無いとすぐさま飛びついたことです。見世物小屋の子泣き爺のような風貌をした男は私を見るなりす ぐに雇ってくださいまして。それからはとんとん拍子。後は貴方もご存知の通り。この私の額のすぐ上か ら伸びる大きく立派な角は私に打出の小槌となってくれたというわけでした。まあしかし、生涯をそこで 通すのも良かったのですがねえ。人生とはかくも分からない物でして。 「貴方ほんに、鬼を娶りたいなんて酔狂ですねえ」 「ふん。凶王と呼ばれ疎まれる私に嫁ぐ貴様こそ、酔狂と呼ばずしてなんと言う」 「私も人並みに女の幸せとやらが羨ましかったのですよ。私はさておき、貴方様にいたっては民が知った らどうなることやら」 「心配は要らん。貴様の名は終生、表には出さん」 「なるほどなるほど。それはよき計らいで」 さあさ杯を終えましたら貴方様が噂の鬼の夫。私は凶王がその名に相応しき嫁でございます。黒き空に、 いびつに赤い月はまこと美しくありました。
角隠し 今、私は交差点の中央に立っていて、前後を車道に挟まれている。歩行者用の信号は赤だから、私は下手に 身動き一つできやしない。行きかう車の時速は標識に従い50キロ前後。それだってかなりのスピードが出 ている。だというのに片手に持った携帯電話でおしゃべりに夢中な運転手が一人、右折する際に私を見て笑 った。そうね、今の私は交通違反者にも笑われる存在。分かりやすく言うならば信号のある道路、その真ん 中にある島に一人取り残されている状態だった。恥ずかしいのは百も承知。わざとやったんだからこれくら いの覚悟はあった。だけどそう。どうしてこうなったかって、それは全て道路を渡り終えた向こう岸にいる 鋭い前髪を持つ男のせいで。信号が、青に変わる。私はやっぱり耐えられなくなった羞恥から一目散に駆け 出し、彼のもとへ行く。待たされている間に不機嫌になった彼が私を睨みようやく来たかと言って、足早に 歩き出す。息を整える隙も、私には与えてはくれない。 「ぐずぐずするな。何をしていた」 「だって待っていてくれると思ったから」 「甘えるな」 「甘えじゃなくて、お願いだよ」 「・・・下らぬことを言う暇があったら、はぐれないように手でも握っていろ」
貴方そう言って、400年前にも私をおいていった

過去が点滅する