今日は席替えでした。私の隣は竹中半兵衛くんでした。 クラスでも友達が竹中くんカッコいいと騒ぐので私も強制的に彼についての話を聞くように なりました。そういうわけで竹中くんの隣の席になった女の子というのは大抵睨まれること を知っていました。なので賢い私は竹中くんにあまり関わらないようにしようと、隣り合わ せた机に距離を置くことにしました。こうすればリンチにあうこともありません。触らぬ竹 中半兵衛にたたり無しというわけです。 「教科書を忘れてしまったんだ。見せてもらいたいんだけど」 何てことでしょう。竹中くんから話しかけられる可能性を考えていませんでした。しかも竹 中くんは教科書を忘れたと言いました。机をくっつけて二人で使うとなると私の放課後はト イレまたは体育館裏に消えることになるでしょう。それは大変穏やかではありません。 なので私は竹中くんが使って、と自分の教科書を彼に渡して反対の席の女の子に借りること にしました。 「君と見れば良いじゃないか」 がたん。机を強制的にくっつけられてしまいました。さて、もうこれ以上どう言い訳をすれ ば良いのでしょうか。ほとほと困り果てた私が目にしたのは竹中くんの机の上にあるノー ト、その下からはみ出る教科書でした。それは間違いなく彼が忘れたと言ったこの時間に使 われるはずのものでした。 「そういうわけだから」 ね。チェシャ猫のような、いたずらっぽい笑みを浮かべた竹中くんは私の高校生活を脅かす 存在だったのだと、そこで私はようやく気づいたのです。
はめられた 「半兵衛の腰ってすごく細いよね」 「そうかな。まあ太くはないと思うけど」 「私より細いよ。ちょっと触ってもいい?」 ぺた ぺたぺた 「え、すご。半兵衛ちゃんと食べてるの?」 「食べてるよ」 「うそつけ。あーあ、私ももう少し細くなりたい・・・」 「ベッドさえあればいつでも僕が協力してあげられるんだけど」 「なぜときめいたし、自分のバカ!」
なにげなくすき 「今日はホワイトデーだ」 「ああ、うん。そうだね」 「あいにくだけど君にあげる物は用意していない。すまないね」 それならいちいち言わなくてもいいじゃん。 「別にお返しが欲しかったんじゃないから気にしなくていいよ。半兵衛も他の女の子にもら  ったチョコ返すので大変だろうしね」 「そうなのかい?なら僕の返事はいらないかな」 「え?」 「物じゃなくて僕の気持ちを返したいと思ったんだけど」 「・・・・」 「いらない?」 「い・・・いる」 「うん、素直な返事だね。気に入ったよ」 あのチョコ、君の手作りだろう?おいしかったよ。そう言う半兵衛の顔が嬉しそうにほころ んだのを見た。春、到来。
ホワイトデー 半兵衛ってルックスだけ見たら勘違いする女の子とか多いじゃん?悔しいけど見た目がいい のは事実だしね。ああ、何か地味に腹が立つ。でもさ、世の女の子は何一つ分かってないと 思うんだ、半兵衛の中身を。半兵衛って実は口悪いし性格悪いし平気で人のことも傷つける し、しかもそれを楽しそうに見てる時だってあるしマジで精神異常の疑いがあると思うんだ よ。ていうかだから秀吉しか友達いないんじゃないの。でも一番凄いのはそんな半兵衛に付 き合える私だと思うんだ。だから半兵衛をちゃんと理解できるのはこれからも私だけだよ。 ねえ分かった?ドS半兵衛さん。 「君が僕を好きなのは十分分かったからそんなところで拗ねていないでこっちへ来給え。  でないと僕の接吻はいつまでたっても得られないよ」 ちくしょう、なんだその腕は!飛び込んでやる! 今日も私は彼に負けた。
勝てるとお思いですか 貴方に恋人がいたとしましょう。とても素敵な恋人よ。誕生日には必ずバラの花束を持っ て駆けつけてくれるし、記念日には事前に休みを取ってくれて、貴方が行ってみたいとい つか呟いた高層ビルにある高級レストランの予約を貴方に秘密で取ってくれるような。そ して彼はとてもリッチ。でもそれをひけらかさない。貴方が我が侭を言えば多少のことは 叶えてくれるけれど、大事なところでは羽目を外さない。出し惜しみはしないけれど、限 度を弁えている。本物の金持ちの男よ。 そんな彼とは出会いこそ友人伝いで運命的とは言いづらいけれど、彼は貴方を一目見て心 のそこから気に入ってくれたし、まるで長年探し続けたシンデレラのような目で貴方を見 る。僕達はまた会うよ。それが初めて会った彼と別れ際に交わした言葉。始まりの言葉。 一種、運命を感じさせるようなそんな言葉を残して去った彼と会うのはその二月後。街角 の小洒落たカフェで偶然席が隣同士になるのよ。彼は話術がとても巧みだから貴方が仕事 で迷っているといえば言葉を尽くして慰めてくれるし、適切で公平な助言もくれる。貴方 は彼が言葉を紡ぐその瞬間、手に持っているカフェオレの存在を忘れて聞き入るはず。そ うしてたっぷり日が暮れるまで話し合ったら、貴方は夕日を受けて少し寂しそうにした目 の前の彼に見蕩れる。二人の会話が途切れて数秒。送っていくよ、の言葉を聴くまでに時 間は掛からないわ。そうして貴方は赤くなった顔を夕日のせいにして頷き、二人で店を出 る。それから帰りがけに寄った公園の噴水前、ライトアップされた庭園に咲くバラを美し いと言い合う。この時点での空は群青。天にはいくつかの星。これ以上に無い雰囲気の中 人がいないかを確認した二人はそっと唇を重ね合わせる。ものの数秒の出来事よ。瞼を開 ければその瞬間、恋人になった彼の顔が瞳に入る。帰ろうか、の言葉に貴方はやっぱり頷 くことしか出来ない。それからええと、とにかくいろいろな事があったわ。語りつくせな いくらいの、こっ恥ずかしいロマンスの数々がね。ともかく彼は貴方が追い求める理想の 恋愛を体現している。まめで繊細で気配りが出来ながらも、機知に富んでいて厭きさせな い男よ。容貌だってまるで物語に出てくるような王子様そのものだけれど、だからといっ て決して女々しくは無い。それが貴方の恋人よ。さて、話は変わってここからが本題。実 は今日は私の誕生日なの。彼と恋人になってから迎える二年目の今日という日。彼は今年 も欠かさずに花束を手に持って私に会いに来てくれるはずだし、もしかしたらお夕飯のサ プライズには私と彼を引き合せてくれた恩人の秀吉も招いているんじゃないかしら。そう だとしたら今年もとっても楽しみな一夜になりそう。さて、そうこうしている内に貴方の 理想の彼がやってきたわ。家をの呼鈴を鳴らす音が聞こえる。ドアを開ければほらそこ に。だけど今日の彼は何だかいつもより緊張した面持ちでいるわ。それに貴方は気づかな いふりをして家の中へ入るように勧めるけれど、「待ってくれ」の彼の声にそれはできな くなる。さて、ここで問題よ。貴方はどうして彼の態度に気づかないふりをしたのかし ら。それは何が理由かしら。考えてみて、意外と簡単なのよ。彼が貴方の左手を取って一 秒。答えは出たかしら。彼が長年使い古された歴史上の言葉を紡ぐわ。ロマンスの香りが する。その香りに、貴方は酔っているだけだった。それが答えよ。 「いいことがある。僕達は結婚しよう」 「もっといいことがあるわ。私達は結婚しないでおきましょう」
愛しのメリージェーン

愛していないことに、今気がついたのよ。